増税にともなうキャッシュレス決済の還元キャンペーンにより、スマホ上で購買行動を完結させる習慣が幅広い層に浸透し始めています。
さらに都心では専用の iOS/Android アプリから商品の注文と決済を受け付ける小規模な店舗ができたり、Uber Eats・出前館というフードデリバリーアプリが急激に成長するなど、飲食店の商品をスマホ上で購入するという行動が目立っています。
まだ飲食店舗アプリの施策といえばクーポンの配布による来店促進が主流ではありますが、ニュースアプリや LINE でも同様の施策が可能で、かつ顧客にとっては普段使っているアプリに内包されているほうがありがたいという面も。
2020 年は、そんな飲食店舗アプリにも新たな動きがあるかもしれません。そこで今回は「アプリならではのメリット」をつくるためのポイントをまとめました。
2020 年はモバイルオーダー(事前注文&スマホ決済)の事例に注目
スターバックスやマクドナルドなどの外資系企業は、日本でも事前に注文と決済ができる iOS/Android アプリを展開し始めました。
特に両店舗は常に混雑しているので、モバイルオーダーを行うことで待ち時間なく(並んでいる人たちを横目に)すぐに商品を受け取ることができます。
もちろんキャッシュレス決済なのでレジや売上入力の手間が省け、硬貨を手で触ることがなく衛生的といった店舗側(運営企業側)のメリットもあります。また、ネイティブアプリと相性のいい EC にあまり依存しない飲食店舗の場合、アプリ経由の売上の柱として期待されているという側面もあります。
アプリストアのレビューから見る、モバイルオーダーという UI/UX の課題
2020 年 1 月時点で、スターバックス・マクドナルド両者のレビューを見ると、まだ黎明期ということもあって
- 店舗側にまだ浸透しておらず、店員の戸惑いがあった
- スマホ決済あるいはレジで Suica を使うつもりだったが、事前のクレジットカード決済のみだった
- 表示される完成時刻と実際の時間にズレがあり、来店したときにはホットドリンクが冷めてしまっていた
といった厳しい口コミが並んでいます。
完成時刻に関しては電車・バスの発着時刻が数分ズレた時点でモヤモヤしやすい日本人らしい意見といえます。
たとえばお弁当やホットスナックを事前注文して自宅・オフィスに持って帰る場合は電子レンジで温め直すこともできますが、店舗の業態によっては相性が悪いケースもありそうです(※店舗側に 100% の責任がなくてもクレーム的なレビューが投稿されるリスクもあり)。
デメリットは高コストと “ねじれ” 現象
事業者目線で見た際のネックは、やはり施策自体にかかるコストでしょう。
クレジットカードなどを登録してもらう場合は万全のセキュリティ施策が求められますし、各社の IC カード・決済アプリ・電子マネーと連携して便利にしようとするほど開発・保守運用のコストもかさみます。
また、モバイルオーダーという施策の全体像を「顧客にデジタルユーザーになってもらい、エンゲージを高めるため」と定義するなら、行動のログや位置情報など顧客を正確にターゲティングするためのデータを常にトラッキングできるかどうかという課題も出てきます。
「自宅・勤務先および行動ルートをすべて知られてしまうのは怖い」「電池の消費が激しくなる」と、アプリを起動している間以外はパーミッションを与えないというユーザーも少なくありません。「顧客のエンゲージメントを高めるためにはデータが必要だが、常にすべてのデータを取得するためには顧客のエンゲージメント(権限の付与・許可)が必要」というニワトリ・タマゴ感もあります。
「ウチに来る顧客は競合にも行く」「ウチを選ぶ理由を設計する」という思想
では、そもそもなぜモバイルオーダーがアメリカで普及しているのでしょうか。
モバイルオーダーを実装しており、アメリカでネイティブアプリの活用事例としてよく挙げられるバーガーキングは
- バーガーキングに行く人はマクドナルドにも行くという前提(顧客はすべてのファーストフード店舗に行く可能性がある人々である)
- まずは顧客にデジタルユーザーになってもらい、データを分析して一人ひとりに最適な体験を提供する(クーポンやキャンペーンなどのセグメント別配信)
- 結果的にマインドシェアを広げ、ファーストフードの中で自社を選ぶ割合を増やす
という考えで、顧客の購買単価・頻度を高めようとしています。クーポンの配布自体は競合もやっていて当然といえるレベルで、かつ値引きをするほど利益は下がるのが実情。そこでパーソナライズが鍵になるということです。
参考:https://www.fastgrow.jp/articles/hirata-yoneda-jeffrey-preston
もちろん高価格帯の個人店であれば、その店でしか味わえない料理・ドリンク、および店の接客・雰囲気も含めた体験を提供することでマインドシェアを獲得(≒独占)することも一つの手です。
ただ、支店を出していくなど飲食事業としてグロースさせる上では、ターゲットとする顧客層を広げることも出てくるでしょう。そうなると、ちょうど iOS/Android アプリを展開できるほどの規模になった飲食企業は “競合にも行く顧客層” を獲得するための施策も検討していくことになります。
モバイルオーダーに限らず、顧客と向き合って必要な機能・コンテンツを設計
iOS, Android ともに毎年 OS のアップデートがあり、ネイティブアプリは開発だけでなく保守・運用にもコストがかかります。
コストがかかるのであれば出費に見合うだけの売上、つまり顧客の購買単価(頻度)を向上させる必要があるため、「顧客をデジタルユーザー化し、パーソナライズした体験を提供する」「マインドシェアを広げる」という考え方が鍵になることは間違いないでしょう。
もちろん、ネイティブアプリの機能としてはクーポンと決済だけでなく
- 店員おすすめメニュー・カスタマイズを紹介するコンテンツ
- 気軽に遊べるミニゲーム(クーポンなど特典つき)
- 拠点ごとのスタンプラリーなど、実空間と連動した施策
など試行錯誤し、起動頻度や来店頻度を向上させようとしている企業もあります。
たとえば他社に先駆けてモバイルオーダーを試す企業は、アーリーアダプタに近い層には好印象を与えられるはずです。子連れで来店しやすい店舗を探せる・アピールするアプリであれば、主婦層に訴求できます。
アプリ事業を始める際は、マインドシェアを獲得したい顧客層を考えて機能を検討することが重要になります。そして、iOS/Android という二つの OS に常に対応するコストに見合う成果が出るかを注視していくことになります。
一方で、単にプッシュ通知でクーポンを配信するアプリでしかない場合は、一度「何のためにアプリをやるのか」「ネイティブアプリでなければならないのか」を議論したほうがいいかもしれません。
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中小店舗は LINE でも代替できるが、大企業は自社アプリへの切り替えも視野に選択を迫られる
2019 年には LINE が中小店舗へのソリューションとしての色を強め、フリープランでもセグメント配信など十分な機能が使えるようになりました。さらに「Mini App」によってメニュー詳細の閲覧やプッシュ通知を受けての来店予約も可能にし、ネイティブアプリの役割を網羅する狙いも見えました。
一方、メッセージの配信が完全従量課金制となったことで、大企業にとっては「メッセージを配信するたびにコストがかさむ」状態に。自社でのネイティブアプリ開発や大手 SaaS への切り替えも検討せざるを得ないという流れが生まれました。
参考:
- 2019年からLINE@がリニューアル? 企業公式アプリとのメリット・役割の違いとは
- 2019年、LINE@と企業公式アカウントが統合━━料金プラン変更による値上げ後、費用は自社アプリのほうが安くなるかも?
- 2020年から「LINE Mini app」の登場でアプリ運用は変わる?公式アカウント(旧・LINE@)との役割の違いとは?
もちろん手軽に友だち登録をしてもらいやすい LINE だからこそできる役割もあるので、自社アプリと共存することは可能です。
ただ、飲食事業を伸ばす上では、限定的な LINE と安価・小機能のテンプレートアプリだけでは競合に差をつけづらくなっています。iOS/Android アプリがまだ採算的に厳しいフェーズであっても、その時点である程度は将来を見据えておくことも重要になりそうです。

- 「アプリをやったことがある人が社内にいなくて相談ができない…」
- 「Webは運用してるけど、アプリだとどこが変わるんだろう?」
- 「できれば内製したいけど、やっぱり最初は外注が必要?」
といったお悩みを抱えている方、iOS/Android アプリの開発プロジェクトを初めて経験する担当者の方などに向けたお役立ち資料を公開しています。