iOS/Android アプリを初めて自社で構築〜運用する場合は、まず「ダウンロード数」を意識しがちです。
しかし、アプリ事業ではダウンロード数も重要ではありますが、売上につながっているかを計測できるように設計した上でアプリ経由、プッシュ通知経由などの CVR まで分析したいところです。
さらに、アプリ事業を軌道に乗せるためには下記のような指標も KPI になります。
- アクティブユーザー数(DAU/WAU/MAU)
- ユーザーのアクティブ率
- 課金ユーザーの割合(PUR)
- 課金ユーザーの課金単価(ARPU)
- 一定期間内のリテンション率
- 生涯獲得価値(LTV)
そこで、本記事ではアプリ事業で KPI になることが多い指標と、相場の水準まで上げるポイントをまとめます。
1. アプリ事業の KPI でよく設定される指標の意味と計算式
業種やジャンルを問わず、iOS/Android アプリを開発して売上につなげるためには
- 毎日~毎月、ある程度の人数の顧客がアプリを起動してくれる(=アクティブユーザー)
- アクティブユーザーの中の一定数が、アプリ経由で定期的に購買行動、および売上につながる行動をしてくれる
という条件が必要となります。
ですので、KPI としては「休眠していないユーザーの数」「定期的に売上につながる常連顧客の割合」などを注視できるものが必要となります。 それぞれの指標について意味をまとめていきます。
1-1. DAU/WAU/MAUとは? → アクティブユーザーを捉える視点の違い
それぞれ Daily/Weekly/Monthly Active User の略称です。
DAU は特定の 1 日に 1 回以上、MAU は 1 ヶ月間で 1 回以上アプリを起動した(休眠・アンインストールしていない)ユーザーの数を指します。
インストールした顧客が 10 万人いるアプリで、一ヵ月以上起動していない休眠ユーザーが 6 万人おり、今日 1 万人起動している場合、DAU は 1 万人で MAU は 4 万人となります。
1-2. アプリの「アクティブ率」とは? → DAU/MAU 比率を指す場合と、異なる場合が存在
アプリ事業を語る上で「アクティブ率」という KPI も耳にする機会があるかもしれません。
アクティブ率という言い方になると企業ごとに定義が異なりますが、多くの場合は
- 累計ダウンロード数に対する現在の MAU 数の割合 を指す場合
10 万ダウンロードのアプリの MAU が 4 万人の場合、アクティブ率は 40%
または
- DAU/MAU の比率 を指す場合
10 万ダウンロードのアプリの DAU 1 万人、MAU 4 万人の場合、アクティブ率は 25%
が「アクティブ率」として扱われることが多いです。
前者では「インストールしただけで使っていない顧客がどれだけいるか」が、
後者では「休眠していない顧客が、どれだけ頻繁に使ってくれているか」が分析できます。
1-3. アプリのリテンション率とは?リピート率との違い
アプリマーケティングの調査データなどを読んでいると、アクティブ率よりも「リテンション率」のほうがよく出てくるかもしれません。
こちらも企業ごとに考え方が異なり、
-
インストールから 30 日以内に一度でも起動・再訪したユーザーの割合が 40%
→「30 日間のリテンション率」が 40% -
インストールから 90 日以内に購買やコンテンツ投稿(企業にとって望ましいアクションを取ったユーザーの割合が 25% の場合
→「90 日間のリテンション率」が 25%
と、異なる定義でも同じ KPI の名称になります。
「ダウンロードから 3 日後のユーザー維持率」という指標が語られている際も「3 日以内に 1 回でも起動した場合」と「3 日連続で起動した場合」を指す場合に分かれるので、調査レポートや導入事例記事を読む際は「指標の定義」に注意しましょう。
また、決済・購買を基準にする場合は「リピート率」と呼んだり、単純に再度起動するだけなら「再訪率」「新規定着率」と呼ぶケースもあります。
1-4. コンバージョン率(CVR)とは
コンバージョン(CV)とは、アプリに限らず、デジタルマーケティングにおいて「成果」を意味する言葉です。
- 商品の購入
- 来店予約
- 有料会員・サブスクの登録(決済)
など、アプリ事業が何を目的にしているかによって、各社・各チームでの CV の定義は変わります。
また、直前の画面からのコンバージョン率を「CVR (Conversion Rate)」と略すことも多いです。
1-5. PUR/ARPU/ARPPUとは? 違いは単位
PUR (Paid User Rate)
すべてのユーザーの中で、アプリ経由で売上が発生しているユーザーの割合、つまり課金者の比率を表します。 長期休眠しているユーザーを含める場合と含めない場合があります。
ARPPU (Average Revenue Per Paid User)
課金ユーザー 1 人あたりの平均収益をあらわす指標です。
ARPU (Average Revenue Per User)
全ユーザー 1 人あたりの平均売上金額です。
ゲーム・EC・サブスクリプション型事業などは、アクティブ率や PUR を高めつつ ARPPU を上げる取り組みも重要になります。
1-6. LTV (Life Time Value) とは?
企業目線の指標で、「あるユーザーが、自社アプリをきっかけにどれだけの価値を生み出してくれるか」を指します。
1 人あるいは 1 社の顧客が自社と取引を開始してから終わるまで(顧客ライフサイクル)の間に、どれだけの利益をもたらしてくれるのかという、顧客から得られる利益の総額を意味する指標です。
2. アプリ事業で特に重要な KPI は「30 日以内のリテンション」
アプリ事業を始める際にはたくさんの略語・指標が出てくるので、戸惑うことは多いといえます。
KPI を考える上では、複数ある中で優先順位をつけることが重要です。
2022 年に公開された Apptentive の調査レポートでは、「顧客がアプリをダウンロードしてから最初の 30 日間のリテンション率が LTV に大きく影響する」と書かれています。
つまり、iOS/Android アプリ事業においてはまずインストールから 7~30 日以内のリテンション率を平均水準まで引き上げ、維持することが KPI 設定のポイントです。
たとえば AppsFlyer の 2023 年の調査では、一般的なニュース・メディアアプリ(iOS)のダウンロードから 3 日後のユーザー維持率を見ると、平均値は 18.84% に留まります。 一方、上位 10% のアプリとなると、平均 30.19% まで高まります。
また、AIRSHIP の 2023 年の調査では、「73%の消費者は、最初の起動から1~2週間以内にアプリを削除するかどうか決定する」という結果になっています。
ですので、インストール直後のユーザーに対して、
- 顧客が離脱しやすい画面やステップを特定し、デザイン・UI をわかりやすくする
- チュートリアルや特定画面でのポップアップメッセージ(アプリ内メッセージ)を出してアプリのメリットを訴求する
- 会員登録でクーポン発行など、最初の購買までの動機付けをする
- アプリストアのレビューを見たり、アンケートを行ったりして顧客のニーズを理解する
といった施策が重要になってきます。
参考:
- Attention Retention! 2023 app retention benchmarks report (AppsFlyer)
- The Mobile Consumer 2023: Give and Get Come Into Focus (AIRSHIP)
3. アクティブ率・リテンション率の平均値とは? ←業界ごとに目安が大きく変わることに注意
インストールから 90 日以内に再訪する「リテンション率」は、AppsFlayer や Statista など複数の調査で 20~30% が相場とされています。
「新しいアプリをダウンロードした人の半分は数日以内にアンインストールまたは休眠する」といわれるとアプリの設計や運用に失敗したように感じられるかもしれませんが、多くのアプリでは「休眠率」は 50% を超えます。
一方、「DAU/MAU 比率」で表されるアクティブ率の相場は「40% 以上なら優秀、20% 以下なら低い」という風に伝えられがちですが、こちらは業種・企業ごとの差が大きいです。
起動するきっかけが多いニュースアプリや SNS では 50〜75% に達する事例もありますが、企業アプリ・会員向けアプリや来店頻度/買い替え・買い足し頻度が低い商材(例:メガネや家電)を扱う小売/EC アプリなどでは、そもそもユーザーが頻繁に起動するきっかけを作りづらいからです。
ですので、DAU/MAU 比率に関しては同じ業界の事例を探したり、社内で話し合った上で KPI となる水準を決めることが多いです。
4. リテンション率やアクティブ率を平均水準より上げるための施策とは?
アクティブ率やリテンション率を平均水準以上で維持するためには、
- ユーザーが離脱するシチュエーションを特定する
- マジックナンバー分析などを使い、「定着する顧客・常連化する顧客の共通点」を見つける
という 2 つのアプローチが重要です。
4-1. バケツの穴(離脱・休眠する理由)を塞ぎ、再訪するきっかけを作る
まず、ユーザーが離脱している原因を探ることが重要になります。離脱する原因が分かっていない状態で広告など集客に力を入れても、費用対効果が悪くなってしまいます。
この施策では、まず Google Analytics あるいは専用のアプリ構築・分析ツールを使って
- インストール → 会員登録 → 商品をカート追加 → 決済手続き(決済手段登録など) → 決済完了
- インストール → 会員登録 → 無料トライアル開始 → サブスクリプション申し込み
など、購買行動(売上)につながるまでのステップの到達率を見る「ファネル分析」が中心になります。
ここで、KPI が達成できていない際に「穴を塞ぐ」手段としては
- 離脱が多い画面のデザインや、価格設定などを見直す
- バナーやボタンの色・文言を見直す
- 決済する → 決済手段を登録する など、ハードルを下げる
- プレミアムプラン加入 → プレミアムにアップグレードする など、名詞から動詞への変換
- ポップアップメッセージ(アプリ内メッセージ)を使って次のステップに進むメリットを伝える
- ログインしていないユーザーに対して、会員登録するとクーポンがもらえる旨を訴求
- 無料プランで利用しているユーザーに対して、有料会員になるとできることを伝える
といった手段が考えられます。課題を抽出し、最適な施策を回しながら検証していきましょう。
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4-2. 定着するユーザーの法則を分析する(マジックナンバー分析)
マジックナンバー分析とは、売上・サービス継続・LTV など理想の状態につながるために必要な行動と回数を見つけ出すことです。
たとえば「SNS アプリで、ユーザー登録日に 5 人フォローした人は定着しやすい」「フードデリバリーアプリで、3 回注文が完了した人は定着しやすい」といった規則性を見つけられると、チュートリアルや特定画面でのポップアップメッセージで誘導するなど具体的な施策に落とし込めます。
現在多くの人が利用しているアプリサービスでも、初期にマジックナンバーを見つけてチュートリアル時にその法則を満たすように誘導するという取り組みがよく行われていました。
ただし、「EC アプリのインストールから一ヵ月以内に 3 回購入した人は定着しやすい(元からブランドのファンだった人が定着しているだけ)」といった疑似相関には注意しましょう。
また、マジックナンバー分析と関連して、アプリに集客した経路(手段)ごとに定着率や課金率・課金単価を計測することも重要です。 「安くユーザーを獲得できるが、売上にはほとんどつながっていない」という場合はその経路への投資を減らし、「ユーザー数は少ないが、」という場合は一時的にその手段での集客に注力してみる、といった具体的な施策に落とし込むことができます。
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