小売業界の企業様から、よく「iPhone/Android のアプリをやったほうがいいのか」「他社のアプリが伸びていると聞いて焦っている」というようなご相談を受けます。
今や買い物を自社の実店舗だけで行なうのではなく、顧客と複数の接点を持つ「オムニチャネル」「OMO」の考え方が主流になっています。
消費者にとっては「どこで買うか」という経路はあまり重要ではなく、スマートフォンによっていつでも企業とつながることができるため、「欲しいものが、必要なときに、お得な価格で買えること」が理想だからです。
そこで、今回は小売ビジネスにおけるスマホアプリ(いわゆるお店アプリ・店舗アプリ)の活用法、メリットやリスクについてまとめました。
※ 開発費用の相場に関する考え方はこちらを参考にしてください
小売企業でのスマホアプリ活用事例と主なメリット
基本的に、リテールアプリは
- CRM:顧客との関係を良くし、実店舗への訪問頻度・購入単価を向上
- 販促:EC など、アプリ経由での直接購入金額(売上)を向上させる + 相互作用によって OMO を実現
のどちらかを目的として開発されています。
前者は単独の事業というよりは既存事業の売上・利益を向上させるためのツールであり、後者は「アプリ事業」としての色が強くなります。
CRM アプリはシンプルな機能なものとして多くの企業が開発している
実店舗への来場促進や、既存顧客(リピーター・常連)の管理をメインとする CRM 目的の場合、顧客に提供するフロント部分の機能は
- ポイントカードのアプリ化
- セール情報の配信(チラシのアプリ化)
- チェックイン機能(来店でポイント付与など)
といったものが実装されます。
このようなアプリを提供しながら、裏側となるシステムで顧客データを細かく取得できるように設計〜実装し、事業戦略に生かすことが CRM アプリの全体像となります。
会員証+PUSH配信だけでも顧客へのメリットは伝わりやすい
特に目新しい機能がなくとも、既存の顧客にとっては、
- 会員カードを紛失することがなくなる
- 外出先からでも、馴染みの各店舗のセール品をチェックできる
- スマホサイトに比べて閲覧しやすい
という明確なメリットがあるので、企業にとっては、実店舗内で接客中のダウンロード促進が比較的やりやすいジャンルといえます。
NTT コミュニケーションズの調査では、多くの顧客が「店内に掲示があったから」「生活圏内に店舗があったから」というきっかけで、「お得なクーポンを利用するため」「ポイントを貯めるため」にアプリをインストールしているという結果が出ています。
参考
- https://www.nttcoms.com/service/mobileweb-smartphoneapp/report/20181211/
- https://www.nttcoms.com/service/mobileweb-smartphoneapp/report/20190301/
店舗と連動したアプリ上の取り組みは発展途上
ただの会員証・デジタルチラシのアプリでは終わらず、店舗と連動したアプリとしてフル活用しようと思うと、
- 欲しい商品の在庫(現物)がある店舗を検索
- アプリ内で決済
- iBeacon を使って実店舗内を誘導
- スタンプラリー
などの機能が挙げられます。
とはいえ、Bluetooth や位置情報を使わせてもらうために苦労したり、中高年層にはアプリの使い方自体を店舗でレクチャーする必要も出てきたりなど、アプリ文化はまだまだ発展途上といえます。
いずれは日本各地のショップでもスマホ決済や位置情報と連動した案内などが一般的になるかもしれません。
「結局、ただのクーポンアプリに?」──小売アプリ(CRM)で注意すべき点
実店舗への来訪を促進する CRM アプリはメリットがわかりやすく、インストールしてもらうこと自体は難しくないため、開発・運用を始める企業は年々増えています。
しかし、国内各社のアプリの分析データを提供する App Annie 社では、小売業界のアプリの多くはあくまで上記の基本機能に留まり、「お知らせアプリ」の域を出ていないとしています。
多くの企業にとってアプリ利用の目的は、最終的に自社の売上を伸ばすことですが、直接的にはクーポンやセール等といった「ディスカウント」キャンペーンの周知及び展開のための利用になっているのが実態です
店舗アプリのパッケージ・テンプレートは豊富だが…
CRM目的の場合、単独事業として売上を可視化しづらいため、iPhone/Android アプリ開発に多くの予算を割きづらいという声が多いです。
そこで、クラウドでアプリを提供する SaaS 企業とパッケージ契約をして、テンプレートの範囲でスタートするパターンも多くなります。
パッケージ型契約であれば初期費用を抑ながら最低限かつ必須である機能を持ったアプリをつくれますが、
- 業界の標準を踏襲するだけでなく、本当に必要な要件をよく考えて見極めること(アプリを出すことが目的になってしまわないこと)
- パッケージアプリは拡張性に限界があるので、「走りながら直していきたい」場合は一度慎重に検討すること
がポイントになります。
また、パッケージサービスを利用する場合でも決して安い買い物ではないため、ただの「お知らせアプリ(クーポン・チラシ)」であれば LINE 公式アカウントで代替したほうが費用対効果が高くなる場合もあることには要注意です。
EC型アプリの理想形、メリットと課題
近年の小売業界では、020(Online To Offline) から発展した OMO(Online Merges with Offline)の重要性が叫ばれています。
小売企業が OMO を実現するためには、iOS/Android アプリをただの会員証ではなく EC と連動したアプリまで昇華させる必要があります。
これは、ある程度商材を問わず、「実店舗と EC の両方で購買してくれるロイヤルカスタマーが売上の大部分を形成している」という傾向データが浮き彫りになってきていることが原因です。
EC のアプリ化は改善の結果が目に見えやすい
コロナ禍もあって小売業界の中で注力されてきた EC サイトは、アプリ化することで各種数値が改善する場合が多く、メリットが大きいというデータが残っています。
ただし、ただアプリ化すればいいわけではなく、あくまで「スマホサイトに比べて使いやすい」という印象を与えられる品質が実現できてこそですので、開発コストを削減しすぎないことをおすすめします。
EC アプリに関しては下記の記事に詳しくまとめましたので、ご一読ください。
店員が特定の商材を売る「P2C」接客
小売アプリを OMO の基盤にするための施策として、EC 上に各店員が投稿するコンテンツを流す「P2C(Person to Consumer)」というスタイルも普及してきています。
アプリ上に店員が商品のメリットやコーディネート例を投稿して EC 上の購入や実店舗への来店(実物の確認やその店員との対話)を促すという狙いで、伝統的な O2O の要素も受け継がれています。
また、P2C接客がリテール企業の業務フローに組み込まれることで、「売れ行きが悪い商品の在庫を処理する(売ってくれたスタッフを高く評価する)」という施策も可能になり、利益率の向上も狙えます。
日本は中国とは背景が異なるためライブコマースはあまり普及していませんが、静的なコンテンツには検討の余地があるといえます。
小売業界でアプリ事業を始める際に気をつけること
冒頭で説明したように、現在の日本人の平均的な IT リテラシーなどもあり、小売業界の現状は「アプリ=既存顧客の管理・セール情報の配信による再訪促進」に留まっています。
この問題には、
- 要件定義が曖昧で、テンプレート・パッケージ型のアプリをそのまま使っても自社にフィットしない
- 運用の手が回らないため、やりたい施策・機能追加があっても実現できない
- 複雑な機能は中高年層に使われづらい(問い合わせ対応や実店舗でのオペレーションが大変)
など、複数の要因があり、簡単に解決できるものではありません。
ポイント1:アプリの役割を明確にする
シンプルな機能の CRM アプリであっても、OMO の基盤となる EC 連動アプリであってもある程度の開発コストはかかるため、「せっかく作ったのだから」とあらゆる業務で活用したくなるものです。
しかし、たとえば新規顧客の獲得であれば既存サイトの改修や Web 広告などのほうが即効性が高いといえます。
アプリは得意な領域で活用した際に大きな成果をもたらすというツールなので、まずは事業の中で、小売企業の中でどんな役割を果たすものかをしっかりと定義することが重要になります。
ポイント2:保守・運用の体制を整えておく
若年層に限らず、幅広い世代で日常的にスマホアプリを使う人の割合が増えてはいるものの、SNS などに比べると企業の公式アプリは起動頻度が低くなります。
そこで、定期的にアプリを開いてもらうための施策として、PUSH配信やアプリ内メッセージが重要になります。
運用のポイントとしては
- プッシュ通知の開封率が低くならないよう工夫する
- プッシュ配信だけに偏らず、アプリ内メッセージなども試してみる
- プッシュ通知の許諾率が低くなりすぎないよう開発チームと連携して注視する
といった部分です。
また、新規事業やトライアルで iPhone/Android アプリを立ち上げた場合、運用担当者は他の業務との兼任となるケースも多いです。そのため、開発の時点で運用を効率化できるように設計しておくとリテールアプリは成功に近づきます。
参考記事


ポイント3:社外ベンダーに協力してもらう際は慎重に見極める
特に OMO を目的としている場合、iOS/Android アプリは開発面でも運用面でもコストがかさみ、戦略や振り返り・検証・改善が重要になります。
ですので、「社内で紹介されたから」「事例が多い SaaS だから」とすぐに決めるのではなく、複数の企業から、そしてパッケージ型契約とフルスクラッチ型開発の両者から提案を受けることをおすすめします。
また、社内に Web やシステム開発の知見はあってもアプリの知見が乏しいというケースも多いため、要件定義の時点から協力(コンサルティング)できるベンダーを選ぶとスムーズに進めやすくなります。
参考記事



- 「自社アプリを考えているが、初期投資を抑えてまずは試してみたい」
- 「LINE からの PUSH 配信で顧客と継続的に接点は作れているが、費用対効果が見合わなくなってきた」
- 「安すぎるシステムだと動作速度や拡張性などが不安」
といったお悩みを抱えている企業様に向けて、ノーコードでアプリを開発するサービス「PASTA」を展開しています。