予算が豊富にあるわけではない中小企業・スタートアップ企業にとって、事業戦略として「iOS/Android アプリを始めたいが、まずは費用を抑えて出したい」という判断になることは珍しくありません。
近年ではプログラミング不要でアプリをつくるツール、制作会社が安価に提供するテンプレート、費用は上がるもののテンプレート+αで自社のこだわりを出せるパッケージサービス(大手 SaaS)など、オーダーメイドでイチから開発する以外の選択肢も豊富になってきました。
自社でアプリ事業を始める際にはこれらが選択肢に入るものですが、まずはメリットやデメリット・リスクを把握しておくことが重要です。
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1. ノーコードパッケージは iOS/Android アプリ「入門」としてメリットが大きい
iOS/Android アプリのノーコード開発・テンプレート系サービスは、
- セルフサーブ型:簡単なアプリを自社で構築できるツールを使う(Wix, ペライチなどのアプリ版)
- SaaS 型:用意された共通機能群の中から自社に合うものだけを使う
といったパターンがあり、どちらもパッケージを提供する企業のサーバーを利用する形になります。
パッケージ型の契約で自社アプリをつくるメリットは、
- 初期費用を抑えてアプリ事業を始める・試すことができる
- 毎年の OS アップデートにともなう対応(保守)が月額利用料金に含まれることが多い
- 多くの導入実績がある=企業の知見を持っている企業であれば、困ったことを相談しやすい
という点です。
1-1. ノーコードでのアプリ開発最大のメリットは構築費用・運用コスト
自社に iOS/Android アプリが必要だと思っていても、開発費用に加えて運用コスト(広告宣伝費・サーバー費用など)も考えるとなかなか一歩を踏み出すことができない、という企業様は少なくありません。
ノーコードパッケージでアプリを構築する際の初期費用は、フルスクラッチ(オーダーメイド)に比べて「桁が一つ違う」ことがほとんどです。
また、法人税の面でもメリットがあり、中長期的な視点でも費用に関してはメリットが大きいのです。
参考
実績あるパッケージよりもさらに桁が一つ違う「格安」のテンプレートには、動作が重い・見た目(デザイン)が良くない・機能が限られている=顧客に受け入れられづらいという品質面でのリスクがあります。
しかし、提供元企業の技術力やコンサルティング力が信頼できるのであれば、ノーコード開発は初めてのアプリ事業の際の有力な選択肢になります。
1-2. 実績ある企業ならアプリのリリース後もメリットが
自社で iOS/Android アプリを構築する場合、あるいは社外ベンダーに構築のみ依頼して保守・運用を自社で巻き取る際、ネックになるのが Apple/Google の規約やシステムの変更です。
特に iOS/Android という両 OS のアップデートは毎年実施されるので注意が必要です。大手ゲームアプリなどは SNS で「アップデートを控えてください」と告知するように、iOS のバージョンが変わるとアプリが起動しなくなる・動作がおかしくなるというケースもあります。
ノーコードのパッケージを契約していると、提供企業がパッケージ自体を新 OS に対応させるため、自社で「不具合の調査〜開発」作業が発生することはなく、安心して運用できることがメリットです。
また、実績ある SaaS 企業であれば、運用をはじめてから「施策があまりうまくいっていない」といった悩みを抱えたときに相談できるケースもあります。 フルスクラッチ開発に比べて月額費用はやや高めになることもありますが、これらのメリットはノーコードパッケージならではの強みです。
1-3. セルフサーブ(自力で作る)型のツールも普及
「ノーコード開発」という言葉がここまで一般的になったのは、「Bubble」「Adalo」という二大ツールの普及が影響しています。
特に Adalo はマウス操作だけで店舗アプリなどを作りやすく、月額数万円の有料アカウントを利用することで自社の iOS/Android アプリをアプリストアにリリースし、顧客に配布することができます。
近年ではノーコードではないスクラッチ開発でも開発費用を下げる「Flutter」が普及していますが、Flutter もまたマウス操作でアプリを作ることができるノーコード開発ツール「Flutter Flow」を提供しています。
関連記事:Flutterとは?メリット・できないこと・事例と、自社アプリ開発で検討する際の考慮点
2. ノーコード/テンプレートで iOS/Android アプリを開発するリスク・デメリットとは?
テンプレート系サービスを使った iOS/Android アプリ開発のデメリット・リスクは
- (ページを自分で作る場合)デザインやレイアウトの基本を押さえていないアプリになってしまい、顧客の定着率や CVR が下がってしまう
- 従量課金制のサービスが多く、事業が成長した頃には運用コストが跳ね上がることも
- 自社独自の事情や戦略に合わせてカスタマイズしようと思ってもできること/できないことがハッキリ分かれる(提供元に依存してしまう)
- 現行のアプリ・システムが限界に達した場合、パッケージから乗り換えてイチから作り直したほうが早い(安い)ことも
という点が挙げられます。
2-1. 「自分でかんたんに画面を作れる」ゆえの落とし穴
自社で自由にカスタムできるセルフサーブ型のノーコードサービスのメリットとして、一つの画面を作る際に社外のベンダーに発注することなく、つまり低コストかつスピーディにアプリをリリース&更新できるという点がよく挙げられます。
しかし、iOS/Android アプリの傾向として、「初めてアプリを起動したユーザーの多くは二度と再訪しない」という調査データが毎年のように発表されています。
アプリの知見がない企業がほとんどのページを自力で作って迅速にリリース(アップデート)するという進め方は、コスト面ではメリットがありますが、中長期的な視点ではユーザー離れのリスクがあるといえます。
さらに、アプリで成果を出すためには
- 新規ユーザーに定着・再訪してもらう
- アクティブユーザーを増やしつつ、集客・購買などのアクションまで到達してもらう
- 一度購買行動に到達した顧客をさらに満足させ、頻度や単価を上げていく
といった複数の視点でのデザイン設計やマーケティング施策が求められます。
実際に、弊社に寄せられたリニューアルのご相談の中でも、アプリのデザインの基本が踏襲されていないため、画面の構成や遷移の流れを練り直すご提案をさせていただくことは少なくありません。
ですので、ノーコードアプリのデメリットを解消するためには、画面の設計・追加デザインや施策のサポートをしてくれる企業を選ぶことも重要です。
2-2. ノーコードアプリは初期費用こそ安いが、最終的に高くつく?
パッケージサービスの料金体系には
- 従量課金制(ダウンロード数やアクティブユーザー数 × 数円)
- プッシュ通知など、特定機能の利用数ごとに従量課金制 ※特殊な例
というパターンがあります。
テンプレートを使えばアプリ事業を安く始められるというのは、そもそも規模が小さければ従量課金の負担も小さく、プラン別でも低額のもので賄えるからです。
しかし、アプリが顧客から支持され、ユーザーが増えてくると話は変わります。ユーザーが多ければアプリ経由での売上も伸びますが、維持するための費用も一気に増えていきます。
さらに、規模が大きくなって、「顧客が求めていることはわかったので新たな施策や新機能の追加をしたい」と思っても、パッケージが対応できる範囲に限界があるので実現できない…という壁にぶつかることが多いです。
「高騰する料金」と「やりたいこと(カスタム)ができない」というデメリットが浮き彫りになることで、巨額の予算をかけてパッケージからオーダーメイドでのアプリへの乗り換えを実施した有名企業もあります。
ですので、ノーコードパッケージサービスを選ぶ際は、料金体系はもちろん、「規模が大きくなった際にどこまでカスタムできるか」という視点でも見るのがおすすめです。
関連記事:
- 【開発費用の相場・目安とは】iOS/Androidアプリの見積もり金額の考え方と、外注・委託時に意識していただきたいこと
- スマホアプリの公開後にかかる費用とは?リリース後の保守運用コストと、開発手段ごとの違い
2-3. セルフサーブ(自力で作る)型の場合、「結局エンジニアの協力が必要になる」ことも?
「ノーコード=初速は高いが、カスタムできる範囲が狭い」という弱点は、Adalo や Flutter Flow など自力で開発するツールでも同様です。
ベースとなるアプリを非エンジニアの方が頑張って開発したとしても、「スタンプが全て押されたらクーポンを付与してもう一度新しい台紙を発行する」といった処理を行う場合などにはエンジニア的なカスタム開発=プログラミングが必要になることがあります。
非エンジニアである当社広報担当が Adalo でアプリを作ったらどこまでがスムーズにできてどこからが苦労したか?という記事もありますので、ご興味をお持ちの方はぜひご一読ください。
関連記事
3. 「テンプレート製のアプリは将来的に規制されるかも?」問題
最初の騒動は 2017 年でしたが、それ以降も Apple/Google 両社の規約修正により、「パッケージアプリは規制されてストアから消されるかも?」と話題になることがあります。
App Store/Google Play の審査基準を示すガイドラインは毎年のように微修正されています。
参考
[Apple] 4.2 Minimum Functionality
Your app should include features, content, and UI that elevate it beyond a repackaged website. If your app is not particularly useful, unique, or “app-like,” it doesn’t belong on the App Store.These services should not submit apps on behalf of their clients and should offer tools that let their clients create customized, innovative apps that provide unique customer experiences.
[Google] アプリは最低限、基本的な機能を備えるとともに、ユーザーに対し失礼にならないようなエクスペリエンスを提供できる必要があります。
頻繁にクラッシュするアプリや、使い勝手の非常に悪いアプリ、またはユーザーや Google Play に対するスパム行為をするアプリは、ストアに追加する意義のあるアプリとはいえません。
https://support.google.com/googleplay/android-developer/topic/9876964
Apple・Google 両者の話はある程度共通しており、「パッケージを使ってノーコード・ローコードでアプリを作ること自体は OK」「ユーザーが満足するようなアプリ独自の体験(デザイン・機能・UI/UX)を提供することが求められる」という点になります。
まだパッケージサービスを提供する企業が大打撃を受けるほど規制された事例はないため、ある程度の実績がある制作会社・パッケージサービスであれば規制のリスクは気にするほどではありません。
むしろ、
- Web/LINE とは違う価値を提供できているか
- 競合他社のアプリより見劣りしないか
といった面を意識することをおすすめします。
まとめ:アプリのパッケージを活用したい企業がそれぞれ注意すべきことまとめ
ノーコード型サービスは開発費用・運用コストを抑えられるとはいえ、上記のリスクやデメリットを踏まえると、制作会社も発注企業も「とにかく安く作れれば良い」という考えでアプリに参入することは危険になってきているといえます。
コスト面だけではなく、限られた機能でも自社のアプリをスモールスタートできるか、制作会社の実績はあるかといった複数の視点から検討することをおすすめします。
開発前の企画に関するお悩み、予算や体制に対する不安、制作実績の問い合わせまで、ご不明点がありましたらお気軽にご相談ください。
- 「自社アプリを考えているが、初期投資を抑えてまずは試してみたい」
- 「LINE からの PUSH 配信で顧客と継続的に接点は作れているが、費用対効果が見合わなくなってきた」
- 「安すぎるシステムだと動作速度や拡張性などが不安」
といったお悩みを抱えている企業様に向けて、ノーコードでアプリを開発するサービス「PASTA」を展開しています。