キュレーションメディアやオウンドメディアの最盛期は過ぎましたが、依然として企業にとってメディアは顧客獲得・育成の有効な手段の一つです。
顧客にメディアをもっと好きになってもらうための手段としてアプリ化は検討されますが、iOS/Androidアプリを作って運営するにはある程度のコストや人手が必要なので、大手企業以外ではまだ広く普及しているわけではありません。
そこで本記事では、メディアアプリをまず大きく 3 つのタイプに分け、先行している企業の事例について深堀りしていきます。
メディアアプリ開発費用の相場やコストを抑えるポイントなどもご紹介しますが、アプリ化のメリットや事業戦略の考え方などについて深く知りたい場合は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
Webメディアをアプリ化するメリットとは?「iOS/Android 版オウンドメディア」に価値は付与できる?
1. メディアアプリの種類と、提供するメリットおよび必須になる機能群
1-1. 情報配信型アプリ(シンプル)の機能とメリット
主な機能
- WebView(Web サイトの記事の高速読み込み)
- 会員登録/ログイン・ログアウト機能
- 好きなジャンルの登録(おすすめ表示機能)
- 記事のお気に入り登録
- アプリ内課金(記事単位の購入または有料会員のサブスクリプション)
- セグメント別の PUSH 配信
基本的なメディアアプリは、上記のような機能を持ち「閲覧をスムーズにする」「プッシュ通知で新着コンテンツを見逃さない」「有料会員は限定コンテンツが閲覧できる」といったメリットを顧客に提供します。
アプリのプッシュ通知は細かくセグメントを切れるので、「特定のジャンル・著者をお気に入り登録している顧客にのみ」「有料会員にのみ」といった配信ができます。
アプリに実装する機能も少ないため開発費用は抑えられますが、有料記事の購入や有料会員の決済が必要な場合のみ追加予算が必要になります。
アプリ内決済がない場合は安価に構築できますが、無料記事のみ配信のシンプルな形式で iOS/Android アプリを構築・運用する場合は費用対効果の面で難易度が高いため、一定規模以上に成長するまでは既存の Web サイトを強化する方向で投資する企業も少なくありません。
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1-2. 行動促進ポータル型(コンバージョン目的)アプリの機能とメリット
主な機能
- 上記基本機能に加え
- 店舗検索機能(GPS 連動)
- 日時指定予約機能
- EC 機能
EC に誘導する「メディアコマース」型のほか、不動産の内見予約をはじめ、営業窓口への「ご相談」を受け付けるなど、顧客への営業につなげるためのアクションを喚起するためのアプリです。
顧客へのメリットとしては、動作の快適さに加えて会員情報・ログイン状態が保存されることで、申し込みという「アクションが取りやすいこと」も重要になります。
1-3. プラットフォーム型(コミュニティ)アプリの機能とメリット
主な機能
- ユーザー投稿機能
- ユーザーフォロー機能
- ユーザー投稿への「いいね」機能
- タイムライン表示
- アプリ内課金(有料会員サブスクリプション)
NewsPicks を筆頭に、記事に対するコメント投稿やお題に対する自由投稿、ユーザー同士の交流を通して「コミュニティ」を形成する形式です。
こちらも多くの場合は Web サイトが成長してから検討することが多いですが、クローズドな場として価値を持たせる場合はアプリのみで構築し、招待制で運用するという手段もあります。
プラットフォーム型のアプリは SNS と近くなるため、「開く・使うこと自体が楽しい」または「開く価値がある」と思ってもらえる状態がゴールとなります。
事業化の際の注意点はこちらも御覧ください
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2. 代表的なメディアアプリの事例7選
2-1. 情報配信型メディアアプリの事例
西日本新聞me
画像出典: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000069.000027592.html
西日本新聞社が運営する、福岡県民のための無料ニュースアプリです。レビューの平均点数も高く、2024 年 6 月時点ではアプリストアの売上数ランキングでも上位につけています。
※売上ランキングでは全国紙やキュレーションメディア(スマートニュースなど)との競争になるので、地方紙のアプリがトップ 10 に入っているのは大成功といえます
アプリの機能としては、
- 選択した地域に関連するニュース
- トピックだけでなく企業などを「フォロー」することで最新情報を追える
- 観光地や河川などのライブカメラ
- 有料会員制度(記事読み放題のベーシック or 紙面まで見られるプレミアム)
と、メディア単体でのマネタイズパターンとしては最大限ともいえる機能を搭載しています。
日経電子版
古くからオンラインメディアにも投資している日軽のアプリです。「アプリで日経が読める」という価値自体が大きいのでアプリの力を測りづらいものの、上記の西日本新聞 me と比較しても品質は決して低くありません。
また、日経は早くからネイティブアプリを構築しつつ、早い時期から PWA による Web サイトの強化にも意欲的でした。PWA で新規顧客・ライトユーザーを育て、アプリで「囲い込み」を狙う戦略は、小売・EC アプリと LINE の使い分けでも見られる基本的な戦略といえます。
参考:日経電子版とPWAのこれから / PWANight vol.2
2-2. 行動促進ポータル型(コンバージョン目的)アプリの事例
メディアの運営費用、アプリの運用費用をカバーするため、EC やポータルサイトなど収益源となるサービスと連動させたアプリの事例です。
北欧、暮らしの道具店
キュレーションメディア最盛期の頃から「メディア単体のマネタイズは難しくなるため、EC との連携が鍵になる」と言われてきましたが、そのメディア+EC という戦略で成長を続けたのが「北欧、暮らしの道具店」です。2023 年 4 月 にも「カンブリア宮殿」に取り上げられており、メディアコマースの(貴重な)成功事例として常に名前を挙げられる存在です。
EC の商品説明ページをメディアの記事として制作しているため、ユーザーはカタログというよりは雑誌を開く感覚で楽しくアプリを閲覧することができます。
WEAR
ZOZO が展開する「WEAR」も、単体としてはメディアアプリといえます。
こちらは ZOZOTOWN が別建てで、EC アプリありきの設計ですが、「メディアで購買意欲を高め、EC で収益を上げる」というビジネスモデルになっています。
また、ユニクロアプリや SHEIN などはスナップ(レビュー)写真・コーディネート投稿の機能を本体アプリ内に作る「スーパーアプリ」的な設計になっており、ブランドによって考え方は変わってきます。
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SUUMO
メディアアプリらしい設計ではありませんが、スーパーアプリ的なポータルアプリとしてチェックしておきたいのは SUUMO です。
不動産ポータルアプリとしては「カナリー」も勢いがありますが、XROOMS Pro 調べ (2023 年末) でも利用率 95% かつ人気 No.1 で圧倒的な存在感を見せています。
SUUMO アプリの中には、オウンドメディアである「スーモジャーナル」など読み物コンテンツも充実しており、単に物件情報を並べるだけでなく顧客に愛されるための施策にも積極的です。
もちろん、住みたいと考えているおおよその場所を「なぞって検索」といったユニークな機能も提供しており、iOS/Android アプリ自体に巨額の投資をしつつ、しっかりと回収できている成功事例といえます。
出典:SUUMO アプリ より
2-3. プラットフォーム型(コミュニティ)アプリの事例
中国新聞「みみみ」
中国新聞社が新たにリリースしたアプリです。既に「ポケちゅピ」が運用されていますが、このアプリでは「記事を引用してみんなに質問」「リアクションやコメントで話題が盛り上がる」とコミュニティ要素が強調されています。
メディアコマースと同様に事例が生まれづらい領域ではあるので、このような新しい事例がメインとなります。
ママリ
2019年に出産した女性の3人に1人※が会員登録しているママ向けNo.1コミュニティアプリ/情報メディア
元はノウハウ型のメディアですが、幼児教育のオンライン相談にも乗り出すなど、アプリでは「相談できること」もメリットに据えています。
メディアの掲載情報だけでは理解しきれなかった顧客・必要な情報を探せなかった顧客が直接質問できることも大きなメリットになるため、メディアのアプリ化における参考事例といえます。
出典:ママ向けアプリ「ママリ」で幼児教育相談サービス『チャイルド・アイズ先生』が2月22日から提供開始
[参考] 事例タイプごとのメディアアプリの開発費用・ランニングコスト相場
メディアを読み込み、最新情報を PUSH 配信するような iOS/Android アプリの開発・保守にかかる費用は
- フルスクラッチ(完全オーダーメイド):初期費用が数千万円規模+保守費用数十万円(規模による)
- 高機能パッケージ:初期費用数百万円規模+月額利用料数十万円
- シンプルなパッケージ:月額費用 10 万円以下
が平均的な相場といえます。メディアの事業タイプで考えると、
- 情報配信メディアのアプリ化(シンプル):パッケージ利用がおすすめ
- 情報配信メディアのアプリ化(独自機能の実装予定あり):カスタム性の高い高機能なパッケージがおすすめ
- 行動促進型メディアのアプリ:高機能パッケージあるいはスクラッチ開発がおすすめ
- コミュニティ型のアプリ:スクラッチ開発がおすすめ
という規模感になります。
コンバージョンのための会員登録・ログイン機能や EC 機能、コミュニティ形成のための SNS に近い機能を実装する場合など、開発量が増えるほど費用が高くなります。
しかし、メディアの運営ではこのような料金体系では経営を圧迫することが多いため、初期費用だけでなく月額の利用料金も抑えるパッケージ・サービスが台頭してきています。
ですので、リスクを抑える方法としては
- まずは Web サイトを十分に成長させる
- 何かしらの収益源となるポイントを作ったアプリを(カスタム開発可能な)パッケージで運用する
- パッケージをカスタムして機能を拡充し、コミュニティとしての成長を目指す
と、フェーズごとに徐々に投資していくプランがおすすめです。
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ただの情報配信アプリではなく、アプリ内で決済を完了して有料会員限定コンテンツを読み込む機能、SNS のようなタイムライン表示などの機能もつけられる上に、利用されているユーザーの規模に応じて月額費用が決まる従量課金制など、「かゆいところに手が届く」サービスとなっています。
ノーコードではなくローコードのパッケージのため、構築費用を抑えながら「初期はミニマムの機能でリリースして、運用しながら機能を追加していきたい」というご相談に柔軟に対応できることが大きなメリットとなっています。
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