(2024年 2 月更新)
2023年 6月、MMDLabo 株式会社は 15~69 歳の男女 7,000 人を対象に 「スーパーアプリに関する調査」を実施いたしました。そこで得られたスーパーアプリの認知度は 23.4 %と、とても低いことがわかりました。
しかしながら、スーパーアプリの代表格である LINE は日本国内でおよそ 8 割の人が利用しているというデータもあります。「スーパーアプリ」という言葉の認知度は低いものの、スーパーアプリは日常生活と共にあることがわかります。
今回は、スーパーアプリの概念や数々の事例を含め、シンプルなアプリと比較した際のメリット・デメリットにふれていきたいと思います。
スーパーアプリとは
スーパーアプリとは、「一つの iOS/Android アプリの中で、さまざまな機能を持つ総合的なプラットフォームを指します。
例えば、A という一種類のアプリのみをインストールし、会員登録をすることで、A のアカウントを使って B, C... といったさまざまな機能を利用することができるというものです。
ミニアプリ・ミニプログラムとは
ミニアプリはスーパーアプリの中にあり、 DL不要で起動するアプリです。
また、最初にスーパーアプリを提供した中国のチャットアプリ「WeChat」は、ミニアプリではなく「ミニプログラム」と呼称しています。WeChatは、2020年5月に MAU(月間アクティブユーザー数)は全世界で 12億人に達しており、ミニアプリ(ミニプログラム)の親であるスーパーアプリは、誰でも知っている超人気アプリであることがほとんどです。
出典:WeChat、5月の月間利用者数が全世界で12億人に到達
スーパーアプリの事例
最初にスーパーアプリとして注目されたアプリは、中国のチャットアプリ「WeChat」などです。こちらは 2020 年時点で MAU(月間アクティブユーザー数)が 12 億人に達しています。
WeChat は日本では馴染みが薄いため、国内で有名なアプリを例として挙げていきます。
国内の代表格・LINE
リリース当時の LINE の強みは、スマートフォンのキャリアを超えてチャットができることでした。しかし今では LINE アプリを 一つ DL するだけで、チャットや電話機能だけでなく、音楽や漫画、ギフト・決済、各企業が提供する「LINE ミニアプリ」などの様々なサービスを利用できます。
スマートフォン利用時に複数のアプリを立ち上げることなく、一つのアプリだけで完結できるのは利便性が非常に高いです。また、2023 年 10 月 1 日にグループ内再編によって「LINE ヤフー株式会社」になったことにより、さらに使用できる機能が増えました。
また、 LINEヤフー株式会社の 2023年度第 3四半期決算説明書( 2024年 2月 6日)では、 LYPプレミアム会員数が旧会員制度の Yahoo!プレミアムと比較した際、日次入会者数が約 3倍になったと発表されました。
LYPプレミアム加入には、 LINEアカウントとYahooアカウントの連携が必要となり、連携済みの会員を巻き込めたのは大きな結果かと思われます。
日本の人口の約半分が利用している PayPay
PayPay は、2018 年 10 月 5 日にキャッシュレス決済サービスを提供開始してからわずか 5 年でアカウント登録済のユーザー数が 6,000 万人を突破しました。
消費者・事業者双方へのお得なキャンペーンの結果、決済アプリの代表格として普及しましたが、今では決済メインのスーパーアプリで海外で先行する AliPay のように「ファイナンス」「保険」「買い物」「ふるさと納税(さとふるのミニアプリ)」など多彩な機能を搭載しています。
番外編:スーパーアプリ化を目指す X (旧・Twitter)
2022 年 10 月にイーロンマスクが Twitter 社を 440億ドルで買収して、名称が「X」になりました。買収後、様々な機能が実験的に導入されたのはご存じの方も多いかと思われます。
また買収の際に、WeChat のようなスーパーアプリ化を目指すことにも触れており、下記のような機能がすでに導入されています。
- 有料プランの導入(今後は 3 つのプランができる見込み)
- クリエイター広告収益プログラム
- 音声通話・ビデオ通話機能
- AI チャットボット「Grok」(※2024 年 2 月時点では国内未実装)
「シンプルなアプリを複数運用」の事例
スーパーアプリとは対照的な事例として、三井住友銀行の 3 つのアプリをご紹介します。
三井住友銀行アプリ
銀行本体のアプリでは、預金残高をファーストビューに表示し、口座ごとの残高表示やネット振り込み、および振り込みの際のワンタイムパスワード機能がアクセスしやすくなっています。
口座の振り込み・引き落とし履歴や総資産が確認しやすい一方で、クレジットカードの明細や「ポイ活」の情報は若干アクセスに手間がかかる設計となっています。
Vpass アプリ
主にクレジットカードの支払金額の通知に使われます。ファーストビューにクレジットカードの利用額とポイントが表示され、ワンタップで利用明細を確認できます。またフッターのナビゲーションに「お得情報」があり、ポイントを貯めやすいキャンペーン情報をたくさん並べています。
「ポイ活」には便利でメイン口座には履歴はすぐにアクセスできる一方で、VPass アプリ単体では資産全体を管理する設計になっておらず、「Moneytree」との連携が前提となっています。
V ポイントアプリ
デビットやクレジット、SMBC 内の投資信託積み立てにより貯めた V ポイントを 1 ポイント 1 円として使うことができます。
公式サイトでは「VPass アプリでポイント残高を確認し、貯まっていたら V ポイントアプリにチャージして Apple Pay や Google Pay で決済ができる」と、VPass アプリとの併用を前提に書かれています。
これらの 3 つのアプリを使い分けるほうが便利か、スーパーアプリとして統合されたほうがいいのか?というところが論点となります。
スーパーアプリのメリット・デメリット
スーパーアプリと単機能アプリのメリット・デメリットにふれていきたいと思います。
スーパーアプリのメリット
①ユーザー数を伸ばしやすい
一つのアプリを DLすれば、手軽に複数の機能を活用することができるため、何個もアプリを DLしてもらう必要がなくユーザーを獲得しやすいです。
アプリを DLするハードルを低くできるという点は最大のメリットといえます。 DLと同様に、会員登録や決済登録も一度で済むため、さらにアプリを使うハードルが低くなり、ユーザー離れを防ぐ事ができます。
②収益性も期待できる
近年では、「消費者がアプリを使っている時間・アプリ経由での支出は伸びているが、よく使われるアプリは限定的」という傾向にあります。
スーパーアプリとして好感触であれば使い続けてもらえる可能性が高まり、滞在時間・収益も高くなる見込みがあるといえます。
スーパーアプリのデメリット
①市場へ参入することが難しい
スーパーアプリとして事業を成立させるためには、メインの機能で圧倒的なユーザー数を確保する必要があります。
LINE はコミュニケーション手段として、PayPay は決済手段としてすでに日常的に普及しており、市場の独占率も高いです。そのような存在になるためには、開発力や企画・マーケティングスキルや IT インフラヘの投資が不可欠となります。
②セキュリティ上のリスク
同一アカウントで複数の機能が利用できるということは、万が一アカウントを乗っ取られた場合、より多くのアカウント情報やサービス履歴 (行った場所や買ったもの) などが第三者へ知られてしまうリスクもあります。
③使いづらくなったり、保守運用が大変になりがち
スーパーアプリは、たくさん機能が搭載されていてそれもまたメリットの一つなのですが、「何がどこにあるのか」がわかりづらくなりがちです。
また、事業者からしても、改修の際に連携する部分に影響がないかを調べつつ開発やテストを進めなければならないので、追加開発やメンテナンス作業が複雑になります。
これらの点についてさらに深堀りすると、下記のような論点があります。
【論点1】ユーザーにとっての便利さ
ユーザーにとっての便利さは以下のようなものがあります。
スーパーアプリ
- 1 アカウントのログインでアプリ内のさまざまな機能を利用することができる
- 複数のアプリを DL する・アップデートする必要がないため、スマートフォンの通信容量を節約できる
- 新機能・ミニアプリが新しく追加された場合、既存の画面と設計が似ている場合も多いため、操作性がつかみやすい
一つのアプリで様々なミニアプリを使用する際、慣れ親しんだ画面や操作方法であると試しやすいのが心情ではないでしょうか。
「使い方がわからない」「新しいアプリの使い方を覚えたり、アカウント登録をするのが面倒」という状況をなくすことで、休眠ユーザーになるのを防ぐことができます。
シンプルなアプリの併用
- アプリの動作速度が速くなりやすい
- 必要な機能にすぐにアクセスできるので、店頭で提示する場合なども使いやすい
必要な機能に的を絞って作られているアプリの方が、起動やメイン機能の動作が軽く、アプリ利用時にストレスが無い点がメリットです。
サービスを利用しなくなったらすぐにアンインストールできるのも利用者側のメリットではないでしょうか。スーパーアプリの場合、様々なサービスと連携しているため、「まだ使うかもしれない」といった理由でアプリを削除できないパターンが多いかと思います。
【論点2】事業者側のやりやすさ
事業者側が得られるメリットは以下のようなものがあります。
スーパーアプリ
- 訴求できるメリットが多いため、DL 数は稼ぎやすい
- コンテンツ投稿や広告宣伝について、プラットフォーム一つに対応するだけで済む
- どの機能が連動して人気があるのか等、細かい視点での分析データを集めやすい
複数のアプリを並行して運営した場合、それぞれのアプリに対してコンテンツ投稿やユーザー数を伸ばすための施策が必要になるため、手間と運用コストがかかります。ですのでスーパーアプリのほうがユーザーを集めやすい傾向にはあります。
一方で、機能が多い故に、コンテンツ管理や分析などが複雑になることは否めません。
シンプルなアプリの併用
- ユーザーの需要を把握しやすい
- 独立した部署・組織で運用しやすい
- ノーコードパッケージなどで初期費用を抑えてスモールスタートをしやすい
シンプルなアプリであれば、MAU やアクティブ率を見るだけでユーザーの需要がある程度把握でき、分析がやりやすくなります。
また、スーパーアプリではアプリ運営に関わる複数の部署が密に連携する必要があるため、部署ごとや機能ごとに分けてそれぞれがアプリを制作管理した方が運用しやすくなる場合もあります。
なぜスーパーアプリは流行らないと思われがちなのか
スーパーアプリ構想の障壁(1):初期投資の重さ
LINEと PayPayに共通すること
いずれも、リリース初期に大きな投資として、なにかしらの無料機能やキャンペーンを提供しています。
LINEは、スマホ普及の波にうまく乗れたということもありますが、無料通話機能やスタンプ機能という無料機能を提供し、ユーザーを囲い込み、有料スタンプ購入や、モバイルオーダー、順番予約サービスなどの LINEミニアプリにて収益を上げています。
PayPayは、アプリリリース時の「20 %還元ボーナス」キャンペーンという赤字覚悟の施策によって、ユーザー数を確保しました。国のマイナンバーカード導入施策のポイント還元先を PayPayに指定した方も多かったのではないでしょうか。
また、 PayPay 加入店側にも決済システム利用料を 1.60%(初期は 0%)として、他企業より安く導入できるよう促しています。
出典:「PayPay」加盟店における2021年10月以降の決済システム利用料について
スーパーアプリ構想の障壁(2):離れていくユーザーも
しかし、スーパーアプリ化のためにはいくつか難題を抱えています。
2023年 7月 15日、広告収入は 50 %減少している
出典:
We’re still negative cash flow, due to ~50% drop in advertising revenue plus heavy debt load. Need to reach positive cash flow before we have the luxury of anything else.
— Elon Musk (@elonmusk) July 15, 2023
イーロンマスクが Twitter社を買収する直前の 2022年 7〜9 月と比較すると、アプリのダウンロード数は 18%減少した
引用:X(旧Twitter)のダウンロード数、2013年の上場前レベルまで減少。目標の月間10億人はもう無理かも
数々の難題には背景があります。
広告収入減やアプリの DL数減少の理由は、慣れ親しんだ青い鳥のアイコンがなくなることや、課金額によって閲覧可能数が変化するなど、これまで慣れ親しんできたユーザーに対しての配慮がきっかけかもしれません。
スーパーアプリとして改善・アップデートを続けていっても、「使いづらくなった」「昔のほうが好きだった」と離れていくユーザーや、新興プラットフォームに流れていくユーザーは生まれてきます。
予算組み・事業計画で考えるべきこと
スーパーアプリと単機能アプリは特徴が異なるため、予算組みと事業計画で必ず考慮しなければならないことがいくつかあります。
スーパーアプリ
スーパーアプリは複数の機能を持ち、様々なシステムと連携するため、シンプルなアプリよりも開発費用・保守運用費用が高くなります。
スーパーアプリ化を前提で事業計画を立てる場合、初期費用を抑えたノーコードパッケージでのアプリ構築は推奨されません。運用開始後のカスタマイズ性を重視して設計し、ある程度のイニシャルコストを確保する必要があります。
また、認知度・ユーザー数が高いことが前提なので、運用・広告宣伝のコストおよびリソースも確保しておく必要があります。リリースから数年は赤字を前提として投資を先行し、長期的に回収・黒字化を見込む事業計画も求められます。
スーパーアプリを提供するためには、まずどのサービスを軸にするのかをはっきりさせましょう。
さらに、初回時に一気にミニアプリを導入して提供するのではなく、シンプル且つ利便性が高いものが好ましいです。事実、 LINEも初回リリース時は、無料通話機能やチャットサービスだけでした。
以下は、 MMD研究所が調査したアプリの利用頻度とジャンルの内訳ですが、毎日利用の欄に書かれているジャンルはどれも LINEアプリに同梱されています。
月 1 回は利用するアプリの機能の場合は、2位のネットバンキングが単機能アプリの例として挙げた、三井住友銀行と合致しています。
出典:MMD研究所 調査データ
シンプルなアプリの併用
シンプルアプリのほうが、構築・保守ともに費用は比較的安くなります。ノーコード開発・ローコード開発のプラットフォームを活用することで、初期費用は大幅に削減できます。
一方で、それぞれに保守運用費用がかかるのはもちろんですが、アプリごとに DL してもらう施策・リピートしてもらう施策が必要になります。「なんでもできるアプリ」に比べると「これをやるためのアプリ」ではユーザーへの訴求力が弱くなるので、宣伝・マーケティング施策には工夫が必要になります。
まとめ
これまでスーパーアプリの背景や事例を交え、単機能アプリと比較した際のメリット・デメリットをまとめていきました。
スーパーアプリとして構築する場合のポイント
- 利用頻度の高い機能を含ませて、その機能で大きなシェアを取ること
- マスに普及するまで耐えられる企業体力 (資金・社内の理解など) が必要
- スケーラビリティを意識した初期設計が重要
- 複数の機能を横断して利用するようなユーザー・セッションの分析ができる体制も欲しい
シンプルなアプリを複数構築する場合のポイント
- アプリごとにユーザー獲得・定着の施策が必要になる
- ノーコード/ローコード開発などで初期費用を抑えて「お試し」でスタート可能
- 異なる部署や組織で業務を切り分けて運用する場合はアプリも分割することが多い
このように、アプリを制作するにあたって「なんでもできるアプリか、シンプルなアプリの併用か」という点はどちらが正解というわけでもなく、この議題は永遠に繰り返されている問題なのです。
合同会社バックアップでは、ノーコード/ローコードでアプリを構築しながら柔軟にカスタムも可能な自社プラットフォーム「Pasta」を展開し、アプリ開発に対する幅広いニーズに対応しています。
要件に応じてカスタム性の高いパッケージ提供からフルスクラッチ開発まで幅広く対応しますので、アプリの新規開発やリニューアルをお考えの際はぜひ一度お気軽にご相談ください。
- 「自社アプリを考えているが、初期投資を抑えてまずは試してみたい」
- 「LINE からの PUSH 配信で顧客と継続的に接点は作れているが、費用対効果が見合わなくなってきた」
- 「安すぎるシステムだと動作速度や拡張性などが不安」
といったお悩みを抱えている企業様に向けて、ノーコードでアプリを開発するサービス「PASTA」を展開しています。