デジタルマーケティング施策として iOS/Android アプリを開発する際、顧客との接点を増やすために欠かせないのがプッシュ通知です。プッシュ通知は、ユーザーがアプリを起動していない状態でもメッセージを配信できます。
しかし、配信頻度や活用方法を誤ると「通知疲れ」を招き、開封率が低下してしまうことも。本記事では、プッシュ通知とはどういうものか、という話から配信パターンとそれぞれのメリット、注意点・効果的な活用事例をまとめました。
こちらは「プッシュ通知の入門編」ですので、より踏み込んだ内容を知りたい方は下記の記事もご一読ください。
参考記事:プッシュ通知の開封率アップ成功事例 5 選!効果的な配信戦略とは?
1. プッシュ通知とは?
iPhone や Android スマートフォン・タブレットで自社のアプリをダウンロードしてくれたユーザーに、好きなタイミングで直接メッセージを表示できる機能です。ユーザーがアプリを開いていなくても情報を届けられるため、プッシュ通知の配信方法を工夫することで、ユーザーをアプリに誘導したり、最新のニュースを認知してもらうことができます。
1-1. ポップアップメッセージ(アプリ内メッセージ)とプッシュ通知の違い
アプリ内メッセージとプッシュ通知は、ユーザーとのコミュニケーション手段として重要な役割を果たしますが、メッセージが表示されるタイミング、ユーザーへの影響の仕方にはいくつかの重要な違いがあります。
まず、「プッシュ通知」は、ユーザーがアプリを開いていない状態や他のアプリを操作している状態でも送信できますが、プッシュ通知の配信を許可しているユーザーに限られます。
一方で、アプリを操作中に画像や文章・ボタンなどが表示されるポップアップメッセージは、正式名称を「アプリ内メッセージ」といいます。アプリ内メッセージはアプリを起動中のユーザーにしか表示できませんが、許諾が必要ないことが特徴です。
「プッシュ通知」と「アプリ内メッセージ」をうまく使い分けることで、顧客との良好な関係を築いていくことができます。企業事例など詳しく記載してありますので、下記記事もご一読ください。
参考記事:アプリ内メッセージとは?プッシュ通知との役割の違いと使い方の事例・ポイント
1-2. プッシュ通知の種類
一言で「プッシュ通知」と言っても、その種類は大きく分けて 4 種類に分類できます。
全体配信(一括配信)
アプリを DL し、プッシュ通知配信を許可している全てのユーザーに対して情報を配信します。
セグメントプッシュ
顧客がアプリ内で登録した会員情報を 「年齢」「性別」「地域」「所属するグループ」「会員ランク」のようなセグメントに分けて、特定の情報を満たす顧客へ配信する方法です。
また、CSV ファイルから取り込んだ実店舗の会員情報や MA ツールで取得した情報など、アプリ外の行動からグループを作って配信を行う事も可能です。
セグメント別プッシュ通知の配信例
- 東京都内に住む男性にのみ配信
- ゴールドランク会員のみ配信
- 既存の EC サイトの年間購入額が 2 万円以上の人のみ配信
- 既存の EC サイトにて、特定の商品を購入した人のみ配信
- 配信する店舗・施設から一定の距離にいる人にのみ配信
オートプッシュ(自動配信)
ユーザーの行動やタイミングに応じて自動的にプッシュ通知ができる機能です。 オートプッシュ通知の一般的な例は、以下の 4 つです。
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リマインダー
カレンダーアプリでもおなじみですが、EC アプリでも定番です。たとえばお買い物カートに商品を残したままにした場合に購入を促すメッセージを配信したり、お気に入りに追加していた商品が値下げされた場合に値下げの通知をしたりといった事例があります。 -
定期配信
語学アプリや目のストレッチアプリなど、毎朝決まった時刻に「今日も頑張ろう」といったプッシュ通知を送る事例もよくみられます。 -
会員情報に紐づくメッセージ
誕生日など、会員情報を元に条件を満たした瞬間にメッセージを送信します。 -
予約注文確認時のステータス
ユーザーが予約や注文をした際、注文に対してのステータスを自動で通知します。メッセージの内容としては「予約を承りました」「ただいま配送中です」「配送完了いたしました」などがよく利用されます。企業側が管理画面から注文のステータスを変更した際に自動で配信という仕組みが一般的です。
1-3. ネット接続状況によるプッシュ通知の違い
iPhone や Android のスマホがオンラインかオフラインかによって、プッシュ通知の仕組みが異なります。
リモートプッシュ通知
スマホをインターネットに接続しているオンライン状態のときに外部サーバーを通して届く、一般的なプッシュ通知です。
ショッピングアプリのセール情報の通知や、SNS およびコミュニケーションアプリの「○○さんがあなたにコメントしました」という通知など、リアルタイムでユーザーに情報を届ける手段として幅広い活用事例があります。
ローカルプッシュ通知
スマホをインターネットに接続していないオフラインの環境でも、プッシュ通知を配信することは可能です。 代表的な活用例は、カレンダーやタスク管理アプリなどのリマインドメッセージです。オートプッシュの中の一部がこちらに該当します。
オフライン状態のローカルプッシュは外部サーバーを介しておらず、アプリ内でユーザーが自分で設定した情報やスマホ端末が持っている時刻情報・GPS 情報などに基づいて送信されることが特徴です。
(補足:スマホの GPS 機能はオフラインでも利用できます。たとえば Google Map のアプリでは目的地近辺のマップを事前にダウンロードしておくと、オフライン状態でもルートを表示することが可能です)
1-4. iPhone/Android/Web のプッシュ通知の違い
技術面の違い
iPhone・iPad の場合、「Apple Push Notification サービス(APNs)」と呼ばれるサービスを利用することで、デバイスに通知を配信できます。 APNs を利用すると以下のことが可能になります。
Android の場合は、「Firebase Cloud Messaging(FCM)」を利用することでプッシュ配信が可能になります。
PWA など Web アプリでもプッシュ通知を送ることはできますが、Web Push は個別のアプリではなく Google Chrome などのブラウザアプリから送ることになります。ブラウザアプリに対する許諾と Web アプリ(サイト)に対する許諾が必要であり、細かいカスタマイズもできないため、iOS/Android ネイティブのプッシュ通知に比べると効果が落ちる傾向にあります。
Android vs iOS:許諾率と効果の差
従来、ユーザーがプッシュ通知を許諾する割合(許諾率)は、Android の方が iOS よりも常に高い傾向にありました。この理由ですが、iOS ではプッシュ通知を受信するにはユーザーの許可が必須であったのに対し、Android では自動的に送信できたためです。
Android 13 からはプッシュ通知の許諾が必要になりましたが、それでも Android のプッシュ通知のエンゲージメント(反応や効果)は iOS を大きく上回っているという調査データがあります。
出典:Mobile App Push Notification Benchmarks for 2025(AIRSHIP 調査レポート)
その理由は、プッシュ通知の表示と削除方法に差があるためです。以下の表に示すように、 Android ではプッシュ通知が目にとまる頻度が高く、アプリに触れる時間も長くなることから、エンゲージメントが向上しやすい傾向があります。
2. スマホ時代のコミュニケーション戦略: プッシュ通知のメリットと効果
2-1.スマホ普及率から見るプッシュ通知の重要性
総務省の「令和 6 年版情報通信白書」によると、日本国内でのスマートフォンの保有率は90.6%に達しており、スマホは年齢を問わず多くの人々に利用されていることがわかります。このデータから、スマートフォンは現代社会においてほぼ全ての世代にとって欠かせないデバイスとなっていることが明らかです。
このような背景を踏まえ、アプリはユーザーの消費行動に直接影響を与える重要なプラットフォームとなっており、プッシュ通知を効果的に活用することで、アプリ内のアクションを促進し、顧客の維持やリピート利用を促すことが可能となります。
2-2.プッシュ通知のメリットと企業が期待できる効果とは
アプリにプッシュ通知機能を導入することには、企業側と顧客側の両方にとって様々なメリットがあります。 以下にそれぞれの観点からのメリットとその効果を詳しく説明します。
企業側のメリット・期待できる効果
- 最新情報の配信に最適
メールよりも閲覧率が高くなりやすく、紙のチラシや DM と違ってリアルタイムでユーザーに届くので、情報の鮮度が重要なケースで役立ちます。またセグメント配信もできるので、オフライン施策のように細やかな対応も可能です。
- ユーザーの定着率を高める
定期的なプッシュ通知を受け取ることにより、ユーザーの定着率を高めて「休眠」やアンインストール回避につなげます。「休眠」というのは、アプリはインストールしているけれども全く利用していない、または利用頻度がとても低いユーザーのことを示します。休眠ユーザーがプッシュ通知を受け取ることにより、再利用からの定着を促す効果も期待できます。
- 常に顧客へ自社ブランドを意識してもらえるように
定期的にプッシュ配信することで、ユーザーは企業やブランドを意識し続けます。ユーザーの役に立つ情報や特典を提供することで、顧客に企業イメージやブランド想起を促し、競合との差別化を図ることができます。
顧客側のメリット
- タイムリーな情報やリマインドを受け取ることができる
「天気予報」「災害情報」「電車のダイヤルや道路の交通通信」など、顧客にとって有益な情報をリアルタイムで受け取ることができます。最近ではアパレルブランドの公式アプリでも、新商品のお知らせなど販促メッセージだけでなく、「今日の天気と、おすすめのコーデ(自社アイテム)」というプッシュ通知を毎日配信するなど、顧客にとって有益な情報を配信しようという工夫がみられる事例も目立っています。
- パーソナライズされたメッセージを受け取ることができる
例えば、購入を検討してお気に入りに登録していた商品の値下げ通知や、お気に入り登録しているブランドの新着商品の入荷通知など、自分の行動に基づいて興味関心のある情報をうけとることができます。
- プッシュ通知のメッセージからアプリに遷移できる
わざわざアプリを開いて、必要な情報へアクセスする必要がないため、メッセージに紐づく任意のアプリ画面へワンタップで遷移できます。
3. プッシュ通知のデメリットと注意点
プッシュ通知は、適切な配信頻度やタイミングを考慮しないと、ユーザーの「通知疲れ」を引き起こし、最悪の場合、アプリのアンインストールや通知の拒否につながる可能性があります。まずは許諾を得るターゲットを絞ることから始めましょう。
3-1.許諾を得てこそのプッシュ通知
プッシュ通知は「通知を許可」したアプリユーザーのみ配信されるため、通知を許可してもらう必要があります。そのため、プッシュ通知の許諾率を上げる試みとして、以下のような方法があります。
新規アプリユーザー向け
初回 DL 後に表示されるオンボーディング(チュートリアル)で、「プッシュ通知をオンにして新着情報を受け取る」メッセージと共に、設定画面へ誘導する方法が効果的です。
また、初回起動時に「アプリ内メッセージ」で直接プッシュ通知の設定を促す方法も有効です。
休眠顧客向け
アプリを DL しているが、プッシュ通知をオフにしている会員に対しては、まず許諾をオンにしてもらう必要があります。
難しい課題ではありますが、AIRSHIP の最新レポートでは、プッシュ通知をオフにした顧客に対してアプリ内メッセージを活用してプッシュ通知のメリットを訴求することで、休眠ユーザーの再許諾率が平均 14% 向上するというデータが出ています。
アプリ内メッセージは表示する条件も決められるので、コンテンツのお気に入りや購買など、ポジティブな体験をした後に出すことが多いです。
参考:Mobile App Push Notification Benchmarks for 2025 (AIRSHIP)
3-2.アプリのプッシュ通知の開封率は、LINE と比べると低い
株式会社 DearOne によって 2023 年に行われた「LINE とアプリの使い分け実態調査」では、「LINE とアプリのプッシュ配信はどちらをよく見ますか?」という質問で、「アプリの方をよく見る」と応えたのは 30 % に対し、「LINE の方をよく見る」と応えたのは 35 % と、アプリを若干上回る結果になっています。
とはいえ、LINE のプッシュ通知は「許諾はしているが、通知はオフにしている」というケースも多く、未読バッジを消すためにまとめて流し見するという消費者も少なくありません。有効な開封率でいえば公表されているデータよりは低くなることが予測されます。
4. プッシュ通知のよくある活用パターン
MMD 研究所によると、アプリをインストールしている平均個数は、約 19 個と言われています。全てのアプリからプッシュ通知を受信している場合、どのようにして他企業との差をつけて自社のメッセージを目立たせるかが重要になってきます。では、代表的なものをいくつかご紹介します。
参考:2022 年版:スマートフォン利用者実態調査 第 2 弾
ウェルカムプッシュ
ユーザーがアプリを DL した後、一番最初に目にするのがウェルカムプッシュです。 オンボーディング(チュートリアル)中にプッシュ通知の送信を許可してもらった場合や会員登録を済ませてもらった場合などに、プッシュ通知でウェルカムクーポンを案内します。
初期設定を完了した後に割引クーポンの通知をすることで、アプリの利用開始から初回の購買行動までスムーズに誘導することができます。
特定の店舗やジャンルをフォローした人にのみ配信
アプリからチェーン展開している飲食店や衣料品店などのお気に入り店舗を登録した場合、登録店舗限定の情報を配信できます。
スポーツの速報や動画の配信アプリでは、好きなチームを選択してもらうことで、チケット販売の予定連絡や関連イベントを送信でき、顧客の知りたい情報をリアルタイムで届けることが可能です。
誕生日の人に自動でクーポン配信するプッシュ
アプリ DL 後、会員登録時に誕生日を入力してもらうことで、オートプッシュ通知で誕生日クーポンを自動配信するパターンが多いです。「誕生日」は、アプリの利用年齢層などを割り出す際にも利用できるデータなので、アプリの会員登録時は「誕生日」の入力項目を設けるとよいでしょう。
また、自動配信するタイミングも重要です。例えば、予約が必要な美容室の場合、月初に誕生日クーポンを送信しても早いタイミングでは予約が取りづらい場合があります。よって、誕生日月の前月に「来月お誕生日を迎える〇〇さんへ」とプッシュ通知を配信し、誕生月にクーポンを利用できるようにするといった事例もあります。
EC のお気に入り商品のセールの値引き
購入予定または検討している商品をお気に入りに設定した場合、セール情報の予告を通知するという自動配信も、よくある種類のプッシュ通知です。
「在庫がなくなる前に購入しよう!」「限定クーポン配布量が残りがわずかとなります」などという切迫感のあるメッセージを送信することで、ユーザーの「今のうちに買わないと売り切れてしまう」「限定クーポンが使えるうちに購入したほうがいいかも」という感情を誘発し購入を促します。
EC サイトのカゴ落ちプッシュ
お買い物カートに商品を入れたままの状態で放置されるのを防ぐために活用されるプッシュ通知です。「お買い物カートに商品が残っております」というメッセージを配信したり、セール開始のタイミングで 「今ならお買い物カートに残っている商品がお安くなります」などというメッセージを配信することで再び顧客に商品購入を検討する機会を与えることができます。
会員リストを CSV から取り込んでプッシュ
CSV から会員リスト(例えば、年齢・性別・地域・所属するグループ・会員ランク)を取り込み、リストの項目ごと、または項目を何個か組み合わせたセグメントごとに配信可能です。 例えば、化粧品販売などのアプリユーザーの場合、年齢と会員ランクを CSV の会員リストから取り込み、「ハイランクの会員且つ、高年齢層向けの化粧品」をおススメするプッシュ通知を送ることもできます。
毎日(毎週)決まった時間帯に配信するリマインド通知
毎日、体重や体温、食事を記録するようなヘルスケアアプリなどは、利用する習慣をつけてもらうためにプッシュ通知で毎日一定の時間帯にリマインド通知を送るパターンが多いです。
小売店・EC アプリなどでは使われませんが、語学学習のアプリ、視力回復のためのアイストレッチアプリなど、意外に幅広く使われています。
注文や配送のステータス通知
商品の注文が完了後、「注文を受け付けました」「配達準備中」「配達完了」という状況の変化をオートプッシュ通知で配信するパターンも、フードデリバリーアプリ、各種マッチングアプリなどでよくみられます。
SNS のリアクション通知
ステータス変更通知に近い種類のプッシュ通知で、SNS やマッチングアプリのような交流サービスでは定番といえます。自分が投稿した内容に対して他ユーザーからの「いいね」やコメントなどのリアクションがあった際に自動で配信されます。
近年、企業などで活用されている「社内用従業員向けアプリ」のポータルサイト運用にも、リアクション通知機能が導入されています。この機能により、社内コミュニケーションが円滑化され、従業員同士の関係強化が図られています。
5. まとめ
プッシュ通知は、適切に活用すればユーザーエンゲージメントを高める強力なツールです。しかし、過剰な配信は逆効果となるため、ターゲットに応じた適切な配信戦略が重要です。企業は、ユーザーの許諾を得る工夫をしながら、より効果的なプッシュ通知の活用方法を模索し続けることが求められます。
BackAppでは、約 200 社の開発実績を元に、お手軽な価格で機能性・カスタム性を確保したアプリパッケージ「PASTA」を提供しています。 フルスクラッチ開発も手掛ける制作会社のため、アプリ構築パッケージサービスを手掛ける他社に比べて運用中に発生する「こんな機能が欲しい」「こんなデザインにしたい」といった要望に柔軟にお応えできる点が強みとなっています。
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