近年、スーパーマーケットや百貨店におけるアプリの活用が急速に広がりを見せています。中でも注目すべきトピックとして、ライフのネットスーパーアプリなどを手がける株式会社 10X が、2025 年 4 月に約 21 億円の資金調達を実施したことが挙げられます。これは、小売業界においてアプリを軸とした顧客体験の再設計が本格化していることを象徴する動きといえるでしょう。
スーパーマーケット・百貨店のアプリといえば「チラシを見る・配信するためのツール」として扱われることもありますが、実際はセルフレジ機能・ポイント管理・EC 連携・購買履歴に基づくレコメンドなど、店舗と顧客をつなぐための機能がたくさんあります。
本記事では、スーパーマーケット・百貨店の実際のアプリ活用事例をもとに、アプリ導入によって得られるメリットと、「基本的な機能」や「先行企業が実装している機能」、顧客からの評価を左右するポイントなど、企画・開発時に押さえておきたい視点をご紹介します。
1. スーパーマーケットでのアプリ活用は年々進んでいる
フラー株式会社が運営する「App Ape」の『スーパーマーケットアプリ市場調査レポート』によると、スーパーマーケット業界におけるアプリの活用状況には、成長の兆しが見られます。
利用頻度は控えめだが、 MAU は着実に成長
起動回数や日常的な利用頻度は高くない一方で、アプリの月間アクティブユーザー(MAU)は 2023 年から 2025 年にかけて約 1.3 倍に増加しています。新規ユーザーだけでなく、既存ユーザーの再訪も増えており、徐々にアプリが生活に定着しつつあることが読み取れます。
主な利用層は50〜60代女性、幅広い世代にリーチ可能
「アプリ=若年層のためのツール」というイメージが根強い中、スーパーマーケットアプリの主なユーザー層は 50〜60 代の女性です。LINE やスマートフォンが生活インフラとなった今、企業アプリは高齢層にも浸透しており、年齢に関係なく価値を提供できるツールとして注目されています。
出典:スーパーマーケットアプリ市場調査レポート (App Ape)
2. スーパー・百貨店アプリの基本的な機能と、提供できるメリット
スーパーマーケット・専門店・百貨店で iOS/Android アプリを活用する際は、
- ポイントカードを軸に、チラシやクーポンなどを実装する店舗アプリ
- 会員カードやクレジットカードをアプリ化し、利用金額照会などがついた金融系に近いカードアプリ (例:タカシマヤ、マルイのエポスなど)
- 即配 EC に特化したネットスーパーアプリ (例:ライフ、平和堂など)
- 店舗内で商品のスキャンと決済ができる店内決済アプリ
といったパターンが世の中で活用されています。
パターン 2~4 を展開している企業でも、実店舗アプリを運用してから別サービスとして展開することが多く、パターン 1 が業界としての基本パターンとなります。
一般的な実店舗アプリの機能群
企業規模を問わず、百貨店・専門店・スーパーマーケットの実店舗アプリに共通するのは以下のような機能群です。
- デジタル会員証(プラスチックカードの ID で連携)
- 店舗検索
- マイ店舗登録(お気に入り)
- チラシ
- 店舗からのお知らせの配信
- 各種キャンペーン情報の掲載
- ポイントや電子マネー残高の確認
- クーポン
- 買い忘れ防止のためのメモ機能
「店舗からのお知らせの配信」には、お買い得商品を使った料理のレシピ投稿や、季節商品の情報配信が含まれます。「買い忘れ防止のためのメモ機能」は、アプリ内で買い物リストをメモすることができます。買い物リストを家族や友人に送信して共有できるアプリもあります。
運用するスタッフや予算が限られている新規アプリの場合、まずはこれらの機能をしっかりと確保した上で、はじめてアプリを触った顧客が迷わない・違和感を覚えないようなデザインを構築することが最も重要です。
顧客側のメリット
- プラスチックのカードを持ち歩く・管理する手間が省ける
- チラシとクーポンでお買い得な商品を来店前にチェックしておける
- キャンペーンなどお役立ち情報が分かる+申し込める
スーパーのアプリ経由の情報配信やデジタル会員証は若年層向けというイメージがありましたが、先述のように 50〜60 代の女性に普及してきていることは大きなポイントです。
企業側のメリット
- 使いやすい会員カード機能やポイント特典を提供できる
- 紙での施策に比べ、クーポンなどの特典がそれぞれどれだけ使われたかという効果測定がしやすい
- ユーザーの購買履歴やアプリ内の行動を分析することで、顧客の行動特性や好み・トレンドを把握しやすくなる
- データを活用してパーソナライズされた商品提案やキャンペーンを展開できる
といった施策により、顧客の来店頻度・購買頻度や単価アップを目指すことができます。使いやすいアプリを提供することもブランドの認知度・信頼性・ロイヤルティ向上に貢献でき、近隣の競合店舗に顧客を奪われづらくなります。
関連記事:アプリのポイントカード機能のメリットと活用事例6選
3. 発展的な機能
スーパーマーケットや百貨店のアプリの中でも、ダウンロード数やユーザー評価が高いものには以下のような機能も実装されています。
- 専用の電子マネーとの連携
- 抽選やガチャなどによるランダムでのクーポン配布
- アプリ起動でもらえるスタンプ
- お弁当やお惣菜などの事前予約販売機能
- セルフでの商品スキャン&決済
これらの機能の詳細は、先行事例として後述します。
EC・ネットスーパー機能は切り分けることも
スーパーマーケットや百貨店がアプリを展開する際、EC 機能やネットスーパーサービスをどのように組み込むかは大きなポイントになります。
一般的には、実店舗での利用を主軸としたアプリの中に、WebView で既存の EC を読み込むパターンが多いです。 有名企業でもコストコ、タカシマヤ、伊勢丹、大丸・松坂屋など多くの事例があります。
参考記事:WebViewとは?メリットとブラウザアプリとの違いをわかりやすく解説
一方で、生鮮食品がメインの場合は「ネットスーパーアプリ」として店舗アプリとは別のアプリをリリースすることもあります。
機能を切り分けたアプリを制作するかどうかの判断ですが、取り扱う商材の特性や、主要なターゲットエリア、顧客の利用動向などによって判断することが重要です。例えば、日用品や食料品のように「頻繁に購入される商品」が中心であれば、日常的に使いやすいネットスーパー専用アプリを用意するメリットが大きくなります。
4. スーパーアプリ・百貨店のアプリ活用事例
スーパーマーケットとデパート・百貨店で、ユニークな機能を実装している事例や、アプリストアでのユーザー評価が平均以上という事例をご紹介します。
なお、アプリ開発においては、リソースや予算の制約がつきものです。だからこそ、自社と規模感の近い企業がどのようなアプローチを取り、ユーザーからどのような評価を受けているのかを参考にすることは非常に有益です。
4-1. ライフ:独自ポイント + ログインスタンプ + 買い物メモ機能
食品スーパー業界で売上 No.1 を誇るライフは、2023 年 7 月末に公式アプリを大幅リニューアル。従来の会員証機能やクーポン配信にとどまらず、ユーザー体験を高める機能が多数実装されています。特に注目すべき機能は以下の通りです。
- LaCuCa ポイントチャージ機能
ライフ独自のプリペイドポイント「LaCuCa(ラクカ)」を、アプリ上の会員証バーコードを使って専用チャージ機から直接入金できます。プラスチックカードでもチャージ可能ですが、カード発行には 100 円の手数料も発生します。アプリからは電子マネー残高・利用履歴の確認もできるので、アプリ会員証なら発行・管理のコストを抑えつつ、よりスマートに買い物が可能です。
- デイリーログインスタンプ
アプリを毎日起動することでスタンプが貯まり、一定数集めると割引クーポンが当たる抽選ができます。日常的にアプリを使いたくなる仕掛けが用意されており、継続利用の促進に効果的です。
- 買い物メモ機能(画像添付可能)
テキストに加えて画像も保存できる買い物メモ機能があります。この機能により、「過去に購入した商品の写真を記録」「レシピ画像を基に必要な食材をリスト化」などと、より直感的で視覚的に分かりやすい買い物リストを作成できます。さらに、作成したリストは家族や友人と簡単に共有可能で、画像が添付されていることで「買い忘れ」や「どのメーカーの商品を購入するべきかわからない」といった問題を効果的に防ぐことができます。
出典:ライフアプリでできること
4-2. Scan&Go ignica:アプリで商品の読み取り
首都圏に展開するマルエツ・カスミ・マックスバリュ関東・いなげや、4社のスーパーマーケットの共同持株会社のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社によって運営されている「ignica (イグニカ)」というアプリの中の Scan&Go 機能は、レジに並ばずに買い物をすることができます。
近くの店舗にチェックインし、専用カートにスマホをセットしてから、商品バーコードをスキャンすることで、スムーズに買い物を完了できます。お会計は、アプリに登録したクレジット決済が利用できます。会計完了後は、QR コードを出口のゲートでかざすことで退店できます。
混雑を避けたいユーザーにとって大きなメリットがあり、買い物時間の短縮やストレスの軽減につながります。店舗側にとっても、会計フローの分散による回転率の向上や人手不足対策として有効です。
4-3. イトーヨーカドー:ピピットスマホ IY マイレジの導入
ignica はセルフスキャンの専用アプリですが、「イトーヨーカドーアプリ」は百貨店の公式アプリとしてチラシ・クーポン・ゲームなどの機能を持ちながら、同様の機能を持っています。
「ピピットスマホ IY マイレジ」は、店内での買い物を効率化する画期的な仕組みです。「マイストア」機能でよく利用する店舗を登録すると、ピピットスマホ対応店舗ではホーム画面に専用バナーが表示され、ワンタップで買い物モードに切り替わります。商品のバーコードをスマートフォンで読み取りながらカゴに入れ、専用のセルフ精算機でスピーディーに会計。発行されたレシートを専用ゲートにかざすだけで退店できるため、レジ待ちの手間を省くことができます。
多機能型のいわゆる「スーパーアプリ」ですが、Android だけで 100 万以上のダウンロードと多くの人に使われています。
出典:ピピットスマホの使い方
4-4. 原信ナルス(新潟県):ギフト予約が特徴
原信ナルスは、新潟県を中心に信越地方で展開するスーパーマーケットの公式アプリです。会員登録をしなくても一部機能を利用できますが、会員登録を行うことで、アプリ限定の割引情報やデータの引き継ぎ機能(ネット会員情報・お気に入り店舗・買い物メモなど)が利用可能となり、利便性が大きく向上します。
特徴的な点は、名産品やギフトなどの予約商品を、アプリ上で「店舗受け取り」または「配送」から選べる機能です。アプリのフッターには「ご予約」アイコンが常設されており、この機能の利用頻度が高く、企業としても注力していることがうかがえます。予約商品の中には、地元の特産品やお中元・お歳暮向けギフトなど比較的高単価な商品も多く、売上の底上げにも貢献していると考えられます。
さらに参考になるポイントとして、2025 年 4 月のアップデートにより、以下の機能が廃止されました。
- 来店スタンプ機能
- スタンプラリー機能
- ネット会員の各特典クーポン機能
スタンプ施策が廃止された一方で、日常的な買い物ユーザー向けの施策も引き続き強化されています。
たとえば、卵や納豆、バナナなどの高頻度購買商品に特化した「スペシャルクーポン」の導入はその一例です。対象商品は都度更新され、クーポン用バーコードも一本化されているため、レジでの利便性も高まっています。
このように、原信ナルスのアプリは、「計画的な予約購買」と「日常のお得な買い物支援」その両方をバランスよくカバーする設計へと進化しており、さまざまな購買スタイルのユーザーに対応している点が特徴です。
出典:原信ナルスアプリ
4-5. ゆめアプリ(広島):ガチャによるお買い物券配布
ゆめアプリは、中国・四国・九州地方を中心に展開する、スーパーマーケットチェーン「ゆめタウン」を運営する株式会社イズミによって提供されています。このアプリの機能面での特徴は、意外に事例が少ない「ガチャ」機能が実装されていることです。
「ゆめガチャ」に参加する条件は、アプリの会員登録が済んでおり、お気に入り店舗を設定していることで、1 人 1 回限り無料で参加できます。ガチャの特典は、次回の買い物で利用可能な「値引積立額」が当たる事です。ゆめガチャは単なる買い物アプリの機能を超え、ユーザーにエンターテインメント性とお得感を提供しています。
出典:ゆめアプリ
4-6. サンエーアプリ(沖縄):豊富な機能で高評価
株式会社サンエーは、沖縄県宜野湾市に本社を置き、主に沖縄県内に多数の店舗を展開する総合小売企業です。地域密着型の展開ながら、アプリには全国の小売業にも参考になる機能が数多く盛り込まれており、Google Play ストアで 4.3・App Store で 4.6 という高い評価を獲得し、ダウンロード数も 10 万を超えています。
アプリに搭載されている主な機能は、以下のとおりです。
- アプリログインスタンプ
- 店舗商品のアプリ予約
- オンラインショップ
- ネットスーパーサービス
- ルーレット形式でポイントが当たるゲーム機能
また、これらの機能を利用するためには「サンエーカード」の発行が必須となっています。
サンエーカードを通じて系列店舗でポイントを貯めることができ、貯まったポイントは「お買い物券」へ交換して利用できます。アプリとカードを連携させることで、顧客の利便性向上と同時に、店舗側にとっても顧客の囲い込みを強化する仕組みが構築されています。
出典:サンエー
4-7. タカシマヤカードアプリ:百貨店の会員カード専用アプリ
タカシマヤでは、百貨店の総合アプリとは別に、「タカシマヤカード(ゴールド)」「タカシマヤカード」会員向けの専用アプリを提供しています。このアプリは、銀行アプリに近い使い勝手で、以下のような機能を備えています。
- 利用明細の確認
- 支払日や利用限度額の確認
- タカシマヤポイントの確認
一方で、より一般向けの百貨店アプリとして「タカシマヤアプリ」もリリースしており、
- EC (ネットショッピング) 機能
- クーポンの配信
- プラスチック製ポイントカードとの連携機能
といった機能を網羅しています。
このように、情報配信や買い物サポートを担うアプリと、会員カード管理に特化したアプリを分けて提供することで、ユーザーの目的に応じた使い分けがしやすくなっています。機能を分離することで滞在時間は下がりますが、使いたい機能を素早く使えるというメリットががあります。
出典:タカシマヤカードアプリ
4-8. 阪急阪神おでかけアプリ(百貨店):LINE 連携機能
「阪急阪神おでかけアプリ」は、百貨店をはじめとするグループ各施設の情報をまとめてチェックできる便利なアプリです。主な機能としては以下の通りです。
- ポイントを貯める
- クーポンの配信
- ショップ検索
特に特徴的なのが、LINE 公式アカウントとの連携機能です。アプリで登録した「お気に入り施設」の最新情報やお得な情報が、LINE の通知を通じてリアルタイムに届く仕組みになっています。アプリと LINE の併用によって、ユーザーへの情報到達率が高まり、施設への再来店を促す効果も期待できます。こうした連携機能は、ユーザーとの継続的な関係構築、いわゆる “囲い込み” の強力な手段となっています。
5. 小売業界の事例から学ぶ、これからスマホアプリを企画・開発する際のポイント
一つの業種・業態に絞っていくつかの企業アプリをダウンロードしてみるとわかるように、スーパーマーケット・百貨店の iOS/Android アプリの基本的な機能群は、全国的な大手企業も地方の企業もあまり変わりません。
しかし、実はスーパーマーケットアプリの Google Play における平均評価は 3.0〜3.49 と低い水準にあり、ライフやサンエーのように 4 点台のアプリはあまり多くありません。
出典:スーパーマーケットアプリ市場調査レポート (App Ape)
では顧客の評価や品質はどこで変わるのか?と疑問に思われるかもしれませんが、アプリストアに投稿された消費者レビューを見てみると、
- チラシまでの導線が分かりづらい
- キャンペーン応募ボタンの場所がわかりにくい
- 会計時に、一つ一つ割引クーポンのバーコードをレジで読み取ってもらう必要があり、手間 (会計時は、クーポンを全てセットされた状態で、レジで対応可否を判断してほしい)
- アプリ起動のたびにログインが必要で、レジでポイント画面をすぐに表示できない
といった意見が寄せられています。
こうした不満コメントからは、操作性や UX(ユーザー体験)がユーザーの印象を左右することが伺えます。特にスーパーマーケットのように会計がスピーディーに行われる業態では、少しの使いづらさが大きなストレスに繋がります。
ですので、アプリの開発事例を研究し、自社アプリの企画〜開発・外注に生かす際は、参考にできそうなユニークな機能をチェックすることも重要ですが、上記のような細かい品質の差も意識することをおすすめします。
BackApp では、約 200 社の開発実績を元に、お手軽な価格で “型” を外さないアプリを構築できるノーコードサービス「PASTA」を提供しています。フルスクラッチ開発も手掛ける制作会社のため、アプリ構築パッケージサービスを手掛ける他社に比べて運用中に発生する「こんな機能が欲しい」「こんなデザインにしたい」といった要望に柔軟にお応えできる点が強みとなっています。
初期費用を抑えて自社アプリを導入しつつ、社内のニーズに応じて柔軟に提案・拡張できますので、自社アプリを導入したいという場合はぜひ一度お気軽にご相談ください。

- 「自社アプリを考えているが、初期投資を抑えてまずは試してみたい」
- 「LINE からの PUSH 配信で顧客と継続的に接点は作れているが、費用対効果が見合わなくなってきた」
- 「安すぎるシステムだと動作速度や拡張性などが不安」
といったお悩みを抱えている企業様に向けて、ノーコードでアプリを開発するサービス「PASTA」を展開しています。