近年、不動産業界も DX 化を進めるためのツールとしてアプリが浸透してきています。しかし、一口に不動産アプリといっても、個人で賃貸契約時に利用する賃貸物件検索アプリや、数百万戸単位の物件のやりとりを管理する企業やオーナーが利用するアプリなど、アプリを利用する立場によって必要な機能が異なります。
そこで本記事では、不動産アプリをまず大きく 3 つのタイプに分け、9 つの事例について深堀りしていきます。各アプリのメリットと外注・内製時の注意点についても解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。
1. 不動産業界のアプリパターンとは
主に以下の 3 つに分けることができます。
- 個人が賃貸物件や物件購入の際に利用する「お部屋探しアプリ」
- 個人が賃貸契約後に個人と不動産オーナー間で利用する「入居者向けアプリ」
- 不動産管理会社と不動産オーナー間で利用する「オーナー向けアプリ」
「入居者向けアプリ」と「オーナー向けアプリ」に共通した機能とメリットですが、「メッセージ機能を利用してやりとりをすることで認識齟齬をなくすことができる。」点です。例えば、家賃の未入金が何件か発生した場合、これまでは、電話や直接現場へ足を運ぶ必要がありました。しかし、アプリのメッセージ機能を利用することで一斉に対象者へ送信することが可能です。管理している不動産が多ければ多いほど一斉に通知できるため、業務効率化に役立ちます。メッセージ機能には画像や動画を添付できるため、日付の管理やより具体的に事実を説明することが可能です。
2. 物件探しアプリの機能
主に賃貸物件の検索がメイン機能となります。対象となるのは、賃貸アパートや賃貸マンションだけでなく、アプリによっては物件購入目的のために新築分譲マンション、新築一戸建て、中古マンション、中古一戸建てなども検索することが可能です。
主な機能
- 多様な検索条件での物件検索 (住所・沿線・駅・シェアハウス・ペット可・通勤通学時間)
- お気に入り物件の保存
- 検索履歴と検索条件の保存
- 新着情報の通知
- 地図検索
- 物件情報の比較
- メールやアプリ内で不動産会社に問い合わせ
アプリによっては実装している機能
- 地図検索画面で浸水マップを確認し、安全性を確認できる
- 物件内や周辺の様子をみることができる
- AI によるおすすめ物件の提案
- 気に入った物件を LINE やメールで簡単に家族や友人と共有できる
- 内見予約
物件検索がメインとなりますが、住所や沿線から調べるという機能のほかに「ペット相談可」・「楽器相談可」・「シェアハウスやカップル向け」などと、詳細な検索条件を設けられる機能が導入されているアプリが多いです。さらに検索履歴や条件とお気に入り物件を保存できる機能も多くのアプリに取り入れられています。
また、ダウンロード数やアプリストアの評価が高いアプリには、ユーザーにとって便利な「地図から検索機能」が備わっていることが大きな特徴です。直感的に「このあたりに住みたい」というイメージを持っている場合、スムーズに物件を検索することができます。
さらにアプリ開発に力を入れている企業では、360 パノラマ機能を活用して物件内部や周辺環境をアプリ上でリアルに確認できる機能も提供しています。この機能により、ユーザーは実際に現地に行かずとも、詳細な物件情報を得ることができ、より納得のいく物件を選択することが可能になります。
2-1. お部屋探しサイトのアプリ化のメリット
お部屋探しサイトをアプリ化することの最大のメリットは、24 時間いつでもどこでもスマートフォンから気軽に物件検索ができることです。
実際に 2021 年の不動産情報サイト事業者連絡協議会による調査結果を見ると、不動産情報を調べる際に利用したツールについては、PC が 49.3 % なのに対し、スマートフォンが 91.8 % を占めました。
この調査結果からも、個人の賃貸物件探しにおいてスマートフォンが広く利用されていることが明白であり、アプリ化は必須といえます。
また、プッシュ通知を活用して新着物件を配信することも可能なため、アプリユーザーが物件探しの条件を保存していた際には、条件に合った新着情報を届けることができ、CVR の向上が見込めます。
2-2.お部屋探しアプリの実例
SUUMO
日本の大手不動産サイトである Suumo は、毎月 1,400 万人のユーザーが新築住宅を検索しています。
特に、地図をなぞって物件範囲を指定し、指定したエリア内から物件を探すことができる機能は非常にユニークで、利用者にとって直下的に使いやすい作りとなっています。「ゼクシィ」などを手掛けるリクルートだからこそ、エリアの住みやすさなどを特集するメディアコンテンツも充実しています。
ライフルホームズ
LIFULL HOME’S 公式アプリでは、賃貸物件と購入物件の検索が可能です。ユニークな機能として、国内不動産検索アプリで初めて導入された「洪水ハザードマップ」機能があります。「洪水ハザードマップ」は、地図上にハザードマップを表示し、同じページで洪水リスクを確認できる機能です。
さらに、「洪水ハザードマップ」は一般ユーザーだけでなく、色覚に障害を持つ方の見やすさにも配慮した設計となっており、多くの人にとって利用しやすい作りになっています。
出典:国内不動産検索アプリ初!LIFULL HOME'SのiPhoneアプリの地図検索に「洪水ハザードマップ」×「なぞる」機能を搭載
カナリー
2019 年 6 月のリリース以来、2023 年 7 月累計時点でダウンロード数は 300 万件を突破しました。
アプリ上で内見日を指定して予約したり、360 度パノラマ機能を利用して物件の内観をみることができるなど機能面でも SUUMO などに対抗できており、ユーザー評価も iOS/Android ともに非常に高いです。
[補足] お部屋探しアプリを制作、または制作依頼時の注意点
圧倒的トップの SUUMO、SUUMO を追いかけるカナリーとともにアプリは内製しており、かなりの予算をかけた事業となっています。地域特化・ジャンル特化などであれば外注・パッケージでも対応できる余地はありますが、利用率トップを目指すような事業であれば最終的には内製を視野に入れた計画をおすすめします。
3. 不動産入居者向けアプリの機能
不動産管理会社がマンションなどの入居者に使ってもらう「入居者向けアプリ」には、主に以下のような機能がついています。
主な機能
- 入居退去時の手続き(賃貸契約申請・契約更新・退去申請をアプリから申請できる)
- 契約情報の管理(アプリから過去の手続き資料を確認できる)
- チャット・メッセージ機能(入居者とオーナー間でスムーズに連絡をとることができる)
- プッシュ通知(居住地付近の生活サポート情報、入居更新日の連絡、新しい物件の紹介など)
- デジタル掲示板(管理会社からのお知らせや共用部の清掃、点検、工事の日程、近隣の不審者情報など)
- FAQ とヘルプ機能
アプリによっては実装している機能
- 住み替えの相談
- アンケート機能
- 多言語表示対応
3-1. 入居者向けアプリのメリット
入居者向けアプリと言われていますが、主な機能における不動産オーナー側と入居者側のメリットについてそれぞれの視点から紹介します。
書類申請に関して、「未完」「対応中」「完了」などの対応ステータス管理画面があると、不動産オーナーは、問い合わせを管理しやすくなります。入居者側も自身の依頼内容の進捗がわかるため安心できるでしょう。
特出した機能の中でもアンケート機能は、入居者の満足度を把握したり、新しく物件を探しているなどの情報を得ることができます。入居者データを作成して分析することで、優良入居者にはより良い物件をおすすめするなど、次のアクションへつなげる可能性を秘めています。
3-2. 入居者向けアプリの事例
企業ごとにアプリの機能に個性があるため、基本機能に触れつつ、各アプリの独自の特徴にフォーカスを当ててご紹介いたします。
D-room
アプリからは、契約内容や個人の口座情報、月々のお支払状況を 24 時間いつでも確認することができます。また、FAQ 機能を活用して、よくある質問から住まいに関する疑問やお悩みを解決することが可能です。さらに、解約や契約更新手続きもアプリ上で簡単に行うことができます。入居者限定で提供されるアンケート機能やコンテストなどのコンテンツが搭載されている点も特筆すべきです。
出典:D-ROOMアプリ
totono
お知らせ掲示板機能やチャット機能があります。写真や動画、PDF を添付することも可能なので、入居者が管理会社に対して LINE のように手軽に連絡できることが便利なポイントです。
出典:totono
いい生活Home
上記のような基本機能のほか、オプション機能として「いい生活 Pay」を申し込むことができます。このサービスは、未収賃金や一時金の回収時にクレジットカードやコンビニエンスストアでの払い込みが可能な決済サービスです。
オーナーは紙の口座振替書の手渡しが不要となり、一時金の回収をスムーズに行うことができます。また、入居者も口座振替書の記入ミスや再取得、再記入の手間がなく、スムーズに決済を行うことができます。
出典:いい生活Home
[補足] 不動産入居者向けアプリ制作時または制作依頼時の注意点
不動産アプリのすべてに多くの機能が標準搭載されているわけではありません。そのため、自社のアプリにどの機能が必要なのかを見極めて制作や制作依頼することをお勧めいたします。
また、近年は SNS が非常にパワーを持つ時代であり、管理会社とのコミュニケーション途中でアプリがクラッシュしてしまったり、記入した書類をアップロードできなかったりするとアプリストアのレビュー平均点が落ちやすい傾向にあります。格安パッケージでの開発には不向きなジャンルのため、ノーコード/ローコードパッケージを利用するにしてもある程度の予算をつけた事業計画をおすすめいたします。
4. 不動産オーナー向けアプリのメリットと事例
不動産仲介・売買企業が各物件のオーナーに使ってもらうアプリは、以下のような機能がほとんどのアプリに搭載されています。
また、企業によってはすでに賃貸管理システムをデジタル化しており、アプリと賃貸管理システムを連携できる場合もあります。
主な機能
- 収支報告と分析 (収支明細・見積書・契約書・送金明細書・巡回報告書などを共有できる)
- 書類管理やファイル管理
- チャットによるコミュニケーション (未読・既読の確認ができる)
- 不動産管理会社からのお知らせ通知 (一斉送信または、個別に送信もできる)
アプリによっては実装している機能
- 確認や承認事項のワークフローを一本化 (入居募集・修繕・退去・契約更新の申請依頼時に利用できる)
- 多言語機能を活用して海外オーナーにも対応できる
4-1. オーナー向けアプリのメリット
収支明細や報告書にまつわる業務において、紙資料の印刷や封入・FAX 送信などの作業が必要でしたが、アプリを導入することでペーパーレス化が進み作業効率が格段に向上します。
また、チャットにてコミュニケーションをとることで、多忙な不動産オーナーと電話がつながらないことによる業務の滞りを解消できます。
このように、不動産オーナー・不動産管理会社それぞれの目線から見ると、
と、双方にメリットがあります。
4-2. オーナー向けアプリの事例
オーナー向けアプリにも、得意な分野がわかれています。オーナーの利益向上へつながるように新たな物件情報の提案に力を入れているアプリや、賃貸管理システムとの連携に注力しているアプリもあります。
初めてのアプリ開発では予算も限られることが多いため、制作や制作依頼をする際に自社のニーズに適した機能を考えて優先順位をつけていくことをお勧めいたします。
WealthPark Business オーナーアプリ
アプリの機能としては、
- 収支明細・報告書の電子化
- チャット機能
- オーナーへの報告承認時のワークフロー
- 物件・テナント・ローン情報共有機能
- 多言語対応
- 情報セキュリティ対策(保有する資産情報の損失回避)
と、基本的な機能をそろえつつ、海外のオーナー向けに日本語で登録した物件情報を(日本語、英語、中国語簡体字、中国語繁体字)の 4つの言語に切り替えることができます。
さらに、不動産という大きなアセットを守るために情報セキュリティ管理委員会を常設し、継続的にセキュリティ教育や情報漏洩対策に努めています。また、「AI 賃料査定」機能では、最先端の AI 技術によって膨大な物件情報の中から競合物件の価格をふまえながらオーナーへ提案する機能もあります。
出典:WealthParkオーナー向けアプリに、PriceHubbleのAI技術を活かした「AI査定価格・査定賃料の表示機能」をリリース 国内の不動産管理会社がオーナーに提供可能
いい生活Owner
2024 年 4 月に業界初となる、新機能「メッセージ Cc(共有先)」がリリースされました。この機能は、オーナーと不動産管理会社の間でのメッセージのやりとりにおいて、自動的に複数の社員を Cc(共有先)として紐づけることができます。反対に、不動産管理会社からオーナーへメッセージを送信する際にも、オーナー側の関連社員を Cc(共有先)に設定して送信することが可能です。
この機能により、問い合わせから解決に至るまで、複数の担当者間で情報を共有できるため、対応漏れや個人依存の高度な作業を分散することが可能になります。担当者が不在で作業が滞るリスクを回避できるほか、オーナーの満足度向上と不動産管理会社の社員の残業時間削減にも寄与します。
出典:【業界初】オーナーアプリ「いい生活Owner」で業界初となるメッセージCc(共有先)機能をリリース
くらさぽコネクトオーナーアプリ
不動産仲介と管理業務に関する情報を一元に管理できる「賃貸革命10」システムとアプリの情報を連動することができます。「賃貸革命10」システムには、以下の情報が管理されています。
仲介業務
- 契約書
- 契約管理
- 物件チラシ
- ネット広告
管理業務
- 請求管理
- 入金管理
- 送金管理
- 問い合わせ管理
システムとアプリの情報を連動することにより、一度入力した物件情報やオーナー情報は再度入力する必要がなくなります。オーナーは、送金明細書や年間収支、物件巡回の結果などもアプリとシステムの両方から閲覧できます。不動産管理会社は、書類を郵送するため印刷や封入作業が不要になるため、業務効率がアップします。
5. まとめ
不動産アプリの活用は、業界における DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として急速に進んでいます。個人向けのお部屋探しアプリから、入居者向けのサポートアプリ、さらにはオーナー向けの管理アプリまで、多岐にわたる機能が提供されており、それぞれのニーズに応じたサービスが展開されています。
ポイントとしては
- 物件探しアプリ: 上位シェアのアプリは内製でかなりの予算をかけて多様な機能を実装しているため、これから注力する場合は内製を視野に入れた事業計画が必要
- 不動産入居者向けアプリ :各種申請途中にクラッシュするなど不具合が星 1 レビュー(クレーム)につながりやすいため、格安パッケージではなく実績のある開発会社をパートナーに加えるのがおすすめ
- オーナー向けアプリ :機能が充実しているものが多く、実際に売上拡大や労働生産性の向上につなげられる見込みが高いアプリなので、企画~設計の時点から自社に最適なシステムを考えるのが重要。必要に応じて企画段階からコンサルティングしてくれる外部パートナーの力を借りることも。
不動産アプリの進化と普及は、業界全体のDXを促進し、顧客満足度の向上や業務効率の改善をもたらすでしょう。今後も各種不動産アプリの動向に注目し、最適なツールを選択していくことが求められます。
BackAppでは、約 200 社の開発実績を元に、お手軽な価格で機能性・カスタム性を確保したアプリパッケージ「PASTA」を提供しています。 アプリをパッケージまたはスクラッチ開発で提供できるほか、Web サイトのスマホ最適化や LINE ミニアプリなども含めたトータルでのコンサルティング~開発が可能です。自社のパッケージを使ったノーコード開発で初期費用を抑えるプランなどお客様のニーズに応じて提案できますので、ぜひ一度お気軽にご相談ください。

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