「紙の会員証を店舗へ持っていくことを忘れてしまった」、「お財布を整理していたら会員証がでてきたけど、せっかくたまったポイントの有効期限が切れていた」などといった経験は誰しもあるかと思います。
物理的な会員証ではなく、デジタル会員証を導入することで、企業はリピート率向上やファンを獲得しやすくなります。また、デジタル化したことにより、顧客情報を容易に集めることが可能となり、情報分析によりさらなるマーケティング施策に役立てます。
ここまでメリットばかりを論じましたが、実は課題や注意点も多くあります。
今回は、デジタル会員証とは何かというところから、デジタル会員証を導入するメリットと導入するためのポイントや注意点を詳しくお伝えいたします。
1. デジタル会員証とは
紙製・プラスチック製でカード型の会員証ではなく、スマホやタブレット端末のアプリを用いた会員証の総称です。
iOS/Android のネイティブアプリ以外にも、LINE のお友だちを検索して登録するように企業を登録して、会員証などを店舗で提示する「LINE マイカード機能」もあります。 来店時に店舗に置いてある QR コードやバーコードをアプリから読み取ったり、レジでコードを見せてスキャンしてもらったりしながら、ポイントやスタンプを貯めていく仕組みが一般的です。
2. デジタル会員証の主な機能
会員証機能
アプリのホーム画面や、「会員証」と名前の付いたタブにバーコードを表示し、会員証として店舗で表示して使います。
紙の会員証をお財布に入れて持ち歩く必要がないため、ユーザー視点からすると持ち運びや提示忘れのわずらわしさがないのがメリットです。
スタンプ付与
スタンプを貯める条件も複数あり、企業ごとに条件を設定することが可能です。
- アプリを起動しただけでスタンプ押下
- お会計金額に応じてスタンプ押下
- アプリの会員ランクや来店回数によって付与するスタンプの数を分ける
デジタル会員証なら、店舗スタッフなどがスタンプを押す業務を省くことができます。また、カード型の再発行手続きやスタンプを用意する手間も省けます。
ポイント付与
ポイント付与に関しても、スタンプと同様に企業ごとに条件を設定することが可能です。
- 購入金額に応じてポイント付与
- 実店舗を訪れてアプリを起動し、QR コードを読み込むことでポイントが付与される
- 店舗と EC サイトでポイントをためることができて、どちらでも使うことができる
外部システム連携
顧客の販売履歴を蓄積している POS システムや、氏名や住所などを管理する会員基盤システムと連携することができます。
また、自社アプリだけでなく EC サイトや実店舗もある場合、POS システムや各基幹と連携することにより、オンラインとオフラインにおける顧客の行動を分析できます。
顧客の行動データを分析することで、マーケティングや施策の見直しに役立てることができます。
予約受付・管理
LINE でも自社アプリでも、デジタル会員証を持つユーザーがスマートフォンから予約できる機能を実装できます。
事業者は予約状況が把握できて、混雑回避や繁忙期の見極めに役立ちます。また、店舗のスタッフの配置人数の目安にもなります。
会員ランク
購買率や利用頻度の高さをキーにして、会員ランクを設定できます。 会員ランクに応じたスタンプやポイントを付与することで、顧客がよりサービスを求めてさらに消費行動を行うきっかけとなります。
プッシュ通知
紙の会員証を使っている場合は、チラシやメール、または店頭のポスターなどで情報配信することになります。
デジタル会員証を作成すると、スマートフォンからリアルタイムで以下のようなプッシュ通知を受け取ることができるため、ユーザーと企業双方にメリットがあります。
- アプリの DLや LINE を登録してくれた人限定のクーポンやサービスの提供
- 割引キャンペーン予告
- 会員情報として登録した誕生日などの当日に、限定のクーポンやサービス
また、開封率を比較した場合、生活に密着している LINE はメールマガジンよりも通知の開封率が高いため、しばらく接点を作れていなかった顧客の掘り起こしにも役立ちます。
3. デジタル会員証を導入するメリット
デジタル会員証を導入するメリットは、事業者と消費者の両方にメリットがあるので、それぞれまとめていきます。
3-1. 事業者のメリット
自社製品やサービスを知ってもらうきっかけになる
デジタル会員証を普及することにより、アプリや LINE からの情報配信を通して継続的に消費者に接点を作りやすくなります。
プッシュ通知や日々の情報発信の工夫次第で、ライトユーザーからファンになってもらい、より購買度の高い顧客へ育てていくチャンスもあります。
顧客管理がしやすくなる
紙やプラスチックの会員証と比べると、手作業で情報入力していたコストやミスを減らすことができます。
また、顧客が物理的な会員証を紛失した場合の再発行手続きも必要なくなります。個人データはシステム上にあるため、アプリを再度 DLしていただきログインすることでアカウント情報を引き継ぐことが可能です。
マーケティング施策に役立つ
デジタル会員証を導入することにより、来店履歴や購入履歴、個人情報などをストックすることができるのでマーケティングに活用することも可能です。
開発プランや機能の拡張性にも左右されますが、対象の年齢や住所、購入金額などセグメント化してプッシュ配信する、という施策を打つことも可能になります。
3-2. 消費者のメリット
お財布に会員証を入れる必要がなく便利
スマートフォンは今や普及率 9割ととても高いため、日常生活に欠かせないものとなっております。どこへ行くにもスマートフォンを所持しているため、一度アプリや LINE で会員証を登録してしまえば、提示するのも簡単です。
物理的な会員証の場合に比べると、「財布に入れ忘れてしまい店舗で提示できない」「せっかく貯めたスタンプの有効期限が切れてしまって使えなかった」という残念な状況が起きづらくなります。
割引や特典サービスを受けることができる
店舗で商品を購入する際、「アプリ DL や LINEのお友だち登録をすることで、初回限定のサービスや割引を受けることができます」と案内されることがあるかと思います。近年では、このように初回登録で特典を付与したり、決済をオンラインで済ませることでポイント還元率をアップしたりといった企業側の施策が多くなっています。
消費者としてどの企業からモノやサービスを買うかと考えた際、サービスレベルが同じだった場合、特典が大きい方を選ぶことが一般的です。よって、割引を得られるならデジタル会員証を作ろうという志向に繋がります。
4. デジタル会員証の導入方法(開発費用別)
デジタル会員証を導入するには、以下 3つの方法がありますので、順番にまとめていきます。
4-1. プラットフォームを利用
デジタル会員証を導入する方法の一つに LINE などプラットフォームのパッケージサービスを利用する方法があります。
自社アプリを作らずにデジタル会員証のパッケージを導入する場合、コストは最も低くなります。
LINE を利用するメリット・デメリット
LINE の月間利用者数は、日本の人口の約 70% と普及率が高いため、専用のアプリをダウンロードすることなく、LINE を通して幅広いユーザーに対してアプローチできることが最大のメリットとして挙げられます。
LINE を利用するデメリット
ネイティブアプリと比較した際、拡張性が低く LINEの中にある機能を利用するため、競合他社との差別化がしづらいというデメリットがあります。
関連記事:LINE API Use Casw 会員証もカンタン発行
4-2. アプリ開発のパッケージを導入
店舗と EC サイトで共用できるデジタル会員証など、機能を絞って自社アプリをノーコード開発で安価に構築するサービスもあります。
自社アプリを作る分、他社のプラットフォーム利用よりは開発費用がかかりますが、できることの幅が広がることがメリットです。
ノーコード開発でデジタル会員証アプリを導入するメリット
とりあえず最低限の機能でアプリを始動してみたいという意味では、開発が短期間かつ、低コストでアプリを作ることができます。 ベンダー側もパッケージで過去に何件も制作している経験があるので、外注する際も比較的安心と言えます。
ノーコード開発でデジタル会員証アプリを導入するデメリット
パッケージに同梱されている以外の機能を盛り込みたい場合は、追加料金が発生する、もしくは、パッケージの仕様によりデザインや機能をカスタマイズができないこともあります。
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4-3. スクラッチ開発
スクラッチ開発は、オーダーメイドに近いので、システム連携や機能面での拡張性に制限がないのが特徴です。
構築費用がかかる分、会員証機能以外に予約・決済・高度なマーケティング機能なども実装するケースが多いです。開発費用は高くなりますが、できることは最も多いです。
スクラッチ開発のメリット
ノーコードパッケージで自社アプリを構築する場合に比べて、「EC の購買履歴を元にセグメント配信したい」「自社システムと連携したい」などといった自社ならではの要件に対応しやすくなります。
スクラッチ開発のデメリット
開発費用の高さに加えて、
- 「ウォーターフォール式」の開発を選んだ場合、急な仕様変更がしづらい
- ベンダー選びに失敗すると、費用の割にパッケージと大差のない品質になる
といったリスクもあります。特にお試しで会員証のデジタル化を進める場合は、まずパッケージを利用してから事業の成長後にスクラッチでの作り直しを検討するという計画もおすすめです。
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5. デジタル会員証導入のポイントと注意すべき点
事業者や利用者にとってデジタル会員証はメリットも多いのですが、いくつか注意点があるので以下にまとめていきます。
5-1. 導入の際の注意点
注意点1. 現場のオペレーションを整えること
従来の会員証からデジタル会員証へ移行する際には、現場のスタッフがスマートフォンの扱いに慣れていない人に対してのオペレーションを適切に行えるようにしましょう。 デジタル会員証へ移行する前準備として、 LINE や企業のホームページなどで移行期日の告知や新しく導入するデジタル会員証の作成方法の案内もわかりやすく作成する必要があります。
「チラシやハガキでもセール情報を届けてほしい」「スマートフォンやアプリを使うことに抵抗がある」という顧客に対し、紙のルートを残すかどうかも収支の視点でよく考える必要があります。
注意点2. デジタル会員証導入の目的・目標を明確にすること
「流行りだから」程度の理由で、物理的な会員証からデジタル会員証へ移行するというのはおすすめいたしません。 何故なら、デジタル会員証へ移行する際にはデータ移行するための開発要員確保や、店頭のオペレーション作業が必要になるからです。
デジタル会員証の導入にはコストがかかるため、コストと費用対効果を考えなければいけません。特に自社アプリはリリースして終了ではなく、改善やユーザーが使いやすいように日々アップデートが必要なため、運用にかかる人件費やメンテナンス費用を考慮しなければいけません。
注意点3. セキュリティー対策を講じること
デジタル会員証から得た会員情報は、ウィルス感染やデータのハッキングにさらされる危険性があります。
社内の開発デバイスの取り扱い方法のルール化を徹底し、開発レベルでも個人情報はサーバーにおいて管理しないなど、セキュリティー対策を講じて外部からの攻撃に備える必要があります。基幹システムにのみ個人情報を保存し、iOS/Android アプリのシステム側では保持しないという設計も検討の余地があります。
5-2. デジタル会員証導入のポイント
まず、ただ会員証機能があるだけのアプリを作っても顧客にとってのメリットが薄いため、特典や便利な機能などを付与することが欠かせません。
さらに、デジタル会員証を運用する上では、
- まずは LINE やノーコードアプリで低コストで立ち上げ、利用者を増やす(紙から移行してもらう)
- 一定のファン層を獲得したら、自社アプリを作りこんで集約する
と、フェーズごとに区切って成長させていくケースが多いです。
LINE で「仮会員証」を、iOS/Android アプリで正式な会員証を作れるようにして両者を併用するケースもあります。
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6. デジタル会員証の導入事例
6-1. LINE でデジタル会員証をスピーディーに発行できるミズノの例
出典:仮会員証を5秒で発行!ミズノのLINEミニアプリ導入をソーシャルPLUSが支援、登録フローの簡略化とCRM最適化のための情報連携を両立
スポーツブランドのミズノ株式会社は、ミズノ主催で開催するスポーツイベント時に QR コードを読み取ってもらい、LINE ミニアプリでデジタル会員証の登録と公式アカウントのお友だち追加ができるようになっています。
また、 LINE とミズノ公式オンラインショップを ID 連携することで、店舗と EC サイト両方でポイントを溜めて使うこともできます。
ポイント:イベント開催時、身近な LINEを通じてアプローチ(認知度アップ)
イベント会場では比較的ハードルの低い LINE を利用することで、手軽に登録してもらえることが期待できます。また、住所や郵便番号など細かい入力項目がないので、スムーズにデジタル会員証を作れる点が顧客にとってのメリットになっています。
LINE のトークルーム内のリッチメニューに常にデジタル会員証があることで、店舗や EC サイトにて購入時にもすぐにポイントをためられる仕様になっています。
6-2. LINEの仮会員証からアプリへ完全移行するニトリの例
家具販売で有名な株式会社ニトリですが、2024 年 2 月 29 日(木)をもって LINE の「仮会員証」サービスを終了します。
ユーザー数とメッセージ開封率の高い LINE を活用し、プッシュ通知やデジタル会員証を浸透させてアクティブユーザーを増やしていき、十分なファン層が獲得できたタイミングで自社アプリへ会員を移行することに成功した企業だといえます。
ポイント: LINE では実現できないサービスをアプリで提供
完全移行の前から、LINE の仮会員よりもアプリの本会員のほうがポイント還元率が高くなるように優遇措置を取っていました。
また、自社アプリは作りこまれており、入店した店舗のマップから欲しい場所を容易に探すことができたり、AR 機能や、過去に購入した同じサイズの商品をアプリ内で表示する機能なども備えています。これらの機能により、LINE(仮会員)だけでは提供できないメリット=アプリ(本会員)に移行する価値を消費者に提供している ところがポイントです。
6-3. ポニークリーニングアプリの例
全国に 800 店舗ある「ポニークリーニング」を運営する穂高株式会社は、2023 年 9 月に LINE での会員証・預かり履歴確認機能を終了し、デジタル会員証はアプリのみで提供しています。
アプリ DL のターゲットは宅配を含まず、クリーニング店に衣類を出すために店舗へ足を運ぶ層へと絞っています。店舗の QRコードを読みこむことで、デジタル会員証やセールのお知らせ機能、クーポンを使うことができるようになります。
ポイント:会員証をアプリにするか紙にするかを顧客が選べる
ポニークリーニングでは、もともと年に 2 回、会員限定のセールのハガキが届くようになっております。
LINE は終了したものの、アプリを利用しなければハガキが届くため、アプリ利用にハードルを感じる層にも対応できます。ホームページにアプリを DLする手順がとても丁寧に記載されており、デジタルディバイド (IT の恩恵を受けられる人とそうでない人の格差) への配慮がうかがえます。
6. まとめ
紙やプラスチック製の物理的な会員証からデジタル会員証を導入することで、事業者と利用者ともにメリットがあります。特に事業者は、デジタル化することで顧客情報を取得しやすくなり、マーケティング施策の精度が向上します。
デジタル会員証を導入するには、 LINE などのプラットフォームで作成するのか、それともアプリで作成するのか、導入方法や開発方法が複数あります。また、自社に適した費用とパフォーマンスを考慮する必要があります。
それと同時に、既存顧客へデジタル会員証への移行時期の周知や、現場スタッフのオペレーション教育も必要になります。
合同会社バックアップでは、iOS/Android アプリだけでなく LINE ミニアプリの開発も手掛けており、iOS/Android アプリと LINEミニアプリを併用していく設計も可能です。
事業規模に応じてパッケージ提供からスクラッチ開発まで幅広くご相談を承りますので、LINEミニアプリやネイティブアプリをご検討の企業様はぜひ一度お気軽にご相談ください。
- 「自社アプリを考えているが、初期投資を抑えてまずは試してみたい」
- 「LINE からの PUSH 配信で顧客と継続的に接点は作れているが、費用対効果が見合わなくなってきた」
- 「安すぎるシステムだと動作速度や拡張性などが不安」
といったお悩みを抱えている企業様に向けて、ノーコードでアプリを開発するサービス「PASTA」を展開しています。