iOS14 の「App Clips」から見る Apple 流の UX──事業者は PWA・LINE ミニアプリなどとの違いを理解しておきたい

※本記事は BizDev 向けです

Apple による WWDC20 内で iOS 14 の新機能がいくつか話題になりました。中でも「App Clips」は、IDFA 問題と並んでアプリマーケティングにおけるポイントになりそうです。

App Clips (Apple developer Documentation)

本記事では、公式ドキュメントやプレゼン動画の内容の中から、BizDev の方が知っておきたい部分をまとめています。また、App Clips を理解する上では Google の Instant Apps や PWA、LINE ミニアプリなどと比較する視点もあったほうがいいため、記事後半ではそれらの周辺領域にも触れています。

App Clips とは

App Clips は、iOS アプリの任意の機能を、本体の DL をせずに(お試しで)実行できる状態に加工する技術です。プッシュ通知は使えますが、複雑なものは作れず、10MB 以内に抑える必要があります。

現時点では「カフェでの事前注文&決済」「レンタルサイクルの貸し出し処理」「美術館で解説を聞きたい作品の音声呼び出し」などのユースケースが提案されています。

行動フローは

  1. ユーザーが特定の URL を呼び出す(該当する機能 / 場所 / 機材・作品など)
  2. URL に紐づいたカード型のフロントページが表示される
  3. ユーザーが承諾した場合は、アクションボタンをタップする
  4. App Clip が起動する

となっており、まずユーザーが App Clips を起動するためには

  • URL のタップ(Web サイト上のスマートアプリバナー、メッセージアプリで共有されるリンク、位置情報に基づく Siri からのサジェストなど)
  • NFC タグを読む
  • QR コードのスキャン

のいずれかがトリガーとなります。

また、App Clips はあくまで iOS アプリ本体の周辺領域なので、起動時には

  • ネイティブアプリも App Clips も DL されていない場合:App Clip を DL して開く
  • 該当する App Clip を一度利用している場合:App Clip をすぐに開く(※)
  • ネイティブアプリがインストールされている場合:アプリを優先して開く

※ DL 後の一定期間は端末のローカルに保存され、期間後に自動で削除される

という分岐があります。App Clip で指定したタスクを完了した場合や複数回起動された際にはオーバーレイを提示し、本体の iOS アプリに誘導することも可能です。

参考

App Clip Experience(トリガーとなる固有の URL とフロントページ)は複数、かつ店舗や物品ごとにつけられる

1 つのネイティブアプリに対しては複数の機能を App Clips 化することができ、それぞれに URL を割り当てることで「App Clip Experience」として管理できます。

たとえば、カフェの iOS アプリに対して

  • 事前注文する(/order)
  • 席を予約する(/reserve)

という 2 つの機能を App Clips Experience として用意しておくことができます。

さらに複数の店舗をもつ企業の場合は

  • 渋谷店(/store/shibuya)
  • 新宿店(/store/shinjuku)
  • 千葉店(/store/chiba)

と、複数の店舗に URL を割り当てることもできます。店舗ごとに固有の URL を割り当てることで、別の体験を設定することができます。

また、上記のようなパラメータとしての使い方では、レンタルサイクルの貸し出しを行うための App Clips Experience(/rent)を

  • 1 号車を貸し出す(/rent?bikeID=1)
  • 2 号車を貸し出す(/rent?bikeID=2)
  • 3 号車を貸し出す(/rent?bikeID=3)

というように、機材(ごとに装着した NFC タグ)に紐づけて処理できます。

参考:https://developer.apple.com/videos/play/wwdc2020/10146/

App Clip Experience ごとに設定できる「Card(フロントページ)」

App Clip Experience の URL の割り当てと、URL ごとのデザイン・機能の設定は App Store Connect 上で行います。

App Clips が呼び出されると、起動した際にカード型のページとして表示されます。

出典:https://developer.apple.com/videos/play/wwdc2020/10146

項目は

  • header イメージ画像
  • タイトル(18 字まで)
  • ディスクリプション(43 字まで)
  • アクション(View・Play・Open の 3 種類から選択)

を指定します。

また、実際の画面ではその下にネイティブアプリの紹介と App Store へのリンクが広告のように表示されます(あくまでネイティブアプリが本体であるため)。

プッシュ通知は制限あり

UX を考えると、

  • 事前に注文した商品が完成した(引き取り可の状態になった)際
  • 借りた車両の返却期限が迫っている際

などにはプッシュ通知を配信したいところです。

デフォルトでは起動後 8 時間までの間にしかプッシュ通知を配信できず、もっと後に配信したい場合はユーザーに許諾を取る必要があります。ポップアップは通常の iOS アプリのものと同様です。

さらに、ユーザーが通知を拒否した場合、App Clips 上でのデフォルトの(8 時間以内の)通知も無視されると書かれており、取り扱いは要注意といえます。

If your app clip’s functionality spans more than a day, explicitly request the user’s permission to send notifications.
However, carefully consider whether you should ask for this permission. Users could deny the request, overriding the app clip’s ability to receive and schedule notifications for up to 8 hours after each launch.
https://developer.apple.com/documentation/app_clips/enabling_notifications_in_app_clips

ユーザー認証(ログイン・決済)は Apple の規格を推奨

App Clips 上では一つの機能をスピーディに実行してもらうことを求められるので、独自 ID を取得してログインする行為は推奨されていません。

公式ドキュメントでも「もしユーザー登録必須の機能を実行させたい場合は、Sign in with Apple のように限られた情報量で(≒すぐに)ログインできるように」「アカウント作成をさせたい場合はタスクの完了後に」と書かれています。

Avoid requiring people to create an account before they can benefit from your app clip. Creating an account is a complex task that takes time and effort. Consider not requiring an account, or think about asking people to create an account after they finish a task. If your app clip requires an account to provide value, limit the amount of information people need to provide; for example, by offering Sign in with Apple.
https://developer.apple.com/design/human-interface-guidelines/app-clips/overview/

また、ユーザーがネイティブアプリ本体をインストールしてから App Clips を開こうとするとアプリ本体が優先されますが、その際にも再度(新しく)ログインさせないようにと書かれています。

ここからは、Apple が「iOS アプリとは、Apple アカウントでログインし、Apple Pay で決済することが最もユーザーにとってストレスのない UX である」と提案していることが伺えます。

Google の PWA、LINE ミニアプリ、そして App Clips

Apple が App Clips を発表したことで、「Apple は(App Store の収益に響くため)PWA に本格対応する気がないのではないか?」という疑問の声も挙がっています。

Google の PWA は「Web 全体をアプリのように見せて UX を向上させる」というアプローチですが、Apple の App Clips は「アプリの一部を Web で公開し、アプリの DL を促進する」という対照的なアプローチになっています。

既に各所で指摘されているように、Google は 2017 年に App Clips と似た「Instant Apps」を提供し始めました。ただ、あまり普及しているとはいえず、ここ数年はむしろ PWA に力を入れている印象があります(アプリベース→Web ベースへのシフト)。PWA は AMP とも組み合わせられるため、Web 全体のソリューションとして提案しやすいというメリットもあります。

また、Apple, Google とは別の視点でのアプローチとして、2020 年 7 月から一般受付を開始した「LINE ミニアプリ(LINE mini app)」に代表されるスーパーアプリ化の流れもあります。これは一つのアプリを DL することで、そのアカウントでログインしたままさまざまなミニアプリ(機能)を利用できるという設計です。

参考:2020年に知っておきたい「スーパーアプリ」とは?中国で先行し、日本のLINE×PayPay構想が有名事例に

事業者にとっては、ユーザーのほとんどがすでにインストールしている LINE を窓口としてサービスを展開することで、情報収集から事前注文・決済までスムーズに実行してもらえます。ただし、顧客のデータ収集が LINE に依存してしまうというデメリットがあります。

まとめ:事業者目線での取り入れる意義

  • PWA 化:Web の UX を向上させるために、アプリの一部の機能を Web 上で提供したい
  • App Clips の活用:いずれアプリを DL して活用してもらう前提で、アプリの一部の機能を Web 上で提供したい
  • LINE ミニアプリ群の利用:制限を理解した上で、まずは顧客を定着させたい
  • 自社のスーパーアプリ化:アプリ事業の最大化

「App Clips を使うからこそのメリット」を考えていく必要がある

App Clips を活用することで顧客の満足度を向上させるチャンスにはなりますが、事業者目線ではあくまで iOS アプリを活用してもらうためのマーケティング施策です。

そこで求められるのは、ユーザーに(アプリを使ってもらうために)「App Clips でなければ提供できない価値」を提供できるかという視点です。

単に決済をするだけならば決済アプリを使えばいいので、公式ドキュメントにある「レストランのテーブルで NFC タグをスキャンして食事代を支払う」という例には疑問符がつきます。

ここに意義を持たせる方法として、たとえばポイントや次回使えるクーポンなどの特典が考えられます。しかし App Clips は再訪されなければ一定期間後に削除されるため、すぐに Apple ID でのログインだけでなく本体の iOS アプリをインストールしてもらうことも必要になります。

レンタルサイクルの例も、事業者として個人情報を収集するか、返却期限を過ぎた場合の対処などに左右されます。たとえば千葉市はユーザー登録が必須ですが、観光地の 1 日限定利用ではクレジットカードのみですぐに借りられることもあります。

App Clips は本体アプリと同じコードで管理できるため、開発面での準備はさほど負荷がかかりません。
参考:https://speakerdeck.com/akatsuki174/app-clipwozatukuriba-wo-siyou?slide=23

試しに導入してみる企業は出てきそうですが、実装の際は BizDev や UX デザイナーの企画・設計スキルが問われそうです。

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